ラウラ・ボーデヴィッヒ
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気が楽になった。こんな私が人な訳がない。人なら空っぽな訳がない。空虚な日々が続いた。訓練に明け暮れた時間にすれば余りに短い時間だったが、まるで永久の牢獄の中に居るようだった。この苦しみは死ぬまで続く、そう信じていた。……あの人と出会うまでは。
織斑千冬と名乗ったその女性は、私に力をくれた。もう一度、自分の足で立つための力を。厳しかった、辛くもあった。私が失敗するとき、厳しく叱られた。まるで、我が子の無事を願うかのように。母親のように、私を危険から護ってくれた。厳しく叱られた後、優しく抱き締められた。
そんな幸福な日々の中、気が付けば私は部隊長という地位に立っていた。そして、私の幸福な日々は過ぎ去っていた。
教官は日本に帰ったという情報が私の耳に入った時、体の中から爪を突き立てられ、今にも外へ破り出ろうとするどす黒いモノを感じた。
違う!
こんな結末は望んでいない。地位も名誉も、暖かさも要らない。ただ、あの人と一緒に居たかった。しかしそんな細やかな願いは叶わず、代わりに勲章やら地位だけが勝手に入ってきた。いつも考えた。あの人の事を。
だから、日本行きが決まった時、私は嬉しかった。副官のクラリッサに一晩中織斑千冬の事を語った。そして日本に着いた時、私は見てしまった。会ってしまった。私の幸福を創ってくれた恩人を。私のたった一つの温もりを奪った裏切り者を……
許せなかった。
貴様は既に幾つもの温もりを持っている。何故、たった一つの温もりすら奪うのか?一瞬殺そうかとも考えた。しかし、出来なかった。だって、私の大切な人もソイツを愛していたからだ。私は人間になった瞬間、織斑千冬を好きになった。しかし、彼女の慈愛は私には向いていなかった。
苦しかった。泣きたかった。そんな屈折した思いが、私に狂気を纏わせたのだろう。誰も悪くない。悪いとすれば自分に他ならない。だから、どうすることも出来なかった。いっそのこと、嫌われた方が楽だった。
しかし、あの人は何処までも優しかった。アリーナで暴れた後も、彼女は昔のように黙って私を抱き締め、「すまない」とただ繰り返すだけだった。
何で織斑一夏なのだ?何でラウラ・ボーデヴィッヒでは無いのか?
問うた。何度も問うた。しかし、応えは無かった。代わりに――
「くそ……!」
そこで現実に戻らされた。私を抱えながら、逃げ回っていた男は遂に倒れた。見ると、いつの間にか足が片方無くなっている。
しかし、
「逃げろ……」
私を出口の方に投げ飛ばすまでは倒れなかった。
「え、えみ」
最後まで言えなかった。自分の顔が濡れている。
何故だ。何故、こんなにも暖かい。
何故こんなにも辛い!?
無意識に這うように、アイツの元に寄る。だが、距離を詰める前にISが邪魔をするように分け入っ
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