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おいでませ魍魎盒飯店
Episode 1 転生乙女は妖精猫を三度断罪す
罪人来たりて蟹を食う
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とを」
 ――なぜなら。
 その台詞と共に、彼女はその右手をゆっくりと上に伸ばした。

「我が理力よ、我が言葉を真実として受け入れよ。 我、キシリア・シルキー・ドルトネットは、この家を支配する。 急々如律令、勅!」
 そして、キシリアがパチンと指を鳴らした瞬間、不可視の力が家中に張り巡らされ、床や壁の木板、打ち付けられた釘の一本一本にいたるまでが彼女の目となり、また耳となる。

 同時に、頭の中に流れてくる大量の情報に激しい頭痛を覚え、思わず軽く膝を突いた。
 もたらされた情報量に、脳の動きがついてきていないのだ。
 ――出来れば長く使いたい力ではないな。
 深く息を吸いながら、キシリアはゆっくりと額の汗を拭う。

 理力とは万能な力ではない。
 自らの種族によって使える理力の種類が定められており、"家"や"家事"に関する全てを支配するのがキシリアの属するシルキー族の理力である。
 だが、彼女たちの理力は家の中全てを見通すことは出来ても、同時に発生する情報処理まで自動で行ってくれるわけではないのだ。
 齢100年を超えたベテランのシルキーならば、城一つですら無意識レベルでその領域自体を自らの感覚器とすることが出来るが、生まれてまだ2年にも満たないキシリアでは小さな家一軒を把握するだけでも相当な消耗を強いられる。

「そこか……逃がさんぞ。 我が理力よ、我が言葉を真実として受け入れよ。 窓よ、ドアよ、汝は我が忠実なる僕なり。 我が命に従うは正し! 急々如律令、閉!」
 別に理力の発動に呪文が必要なわけではないが、自らのイメージを口に出したほうが理力の制御は簡単になる。
 そして自らの望んだ結果を得られたことに満足すると、キシリアはゆっくりと体を起こし、同時に唇の端を三日月のように吊り上げた。

「ニャッ!? ドアが開かないにゃ!?」
「ポメ兄! 得意の鍵開けはどうしたんだニャ!?」
「ダメニャ! 扉が開かない! 鍵穴が何かの力……たぶん理力で固定されているニャ!! シルキーの呪いニャ!!」
「ニャにぃぃぃっ!? まずい! まずいよポメ兄!!」
「こっちの理力で相手の理力を上書きするニャ! おみゃーも手伝うニャ!! ついでに門の神にも祈って神聖魔術の力を上乗せするニャ」
 二匹のケットシーが揃ってドアに手を当てて祈る姿はなかなかに愛らしい光景だったが、本人たちはこの上もなく必死である。
 彼等にとっての死神は、そのすぐ後ろまで来ていた。

「門の神イアヌスよ! その御心深ければこの哀れな下僕を救いたまえ!」
 門の神の加護を願う神聖魔術を併用して"鍵開け"の理力を増強するが、肝心の扉はウンともスンとも動かない。
 それどころか、ドアの輪郭がいつの間にか周囲の壁と一体化しており、鍵穴ですらも傷が癒される
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