29, その日
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「ああああ」
漏れるのは気合の雄叫びとも悲しみの悲鳴とも聞き取れる声。
――ダッカーが、死んだ。
呆然としていた私はその一言でようやくこの状況を把握した。
私は、死ぬかもしれないんだ。
振り下ろされるピッケルを必死に受けとめた。
思い一撃に腕がしびれ、たたらを踏む。だけど、腕を下げたら、私はもう死ぬしか無い。
「おおおおお」
遠くでキリトの声が響き渡る。
破砕音はこちらへと近づいてくるけれど、その度にモンスターの群によって、遠くにまで押し戻される。
何もわからない。
ひたすらに防ぎ続けるけれど、僅かなHPの減少は避けられはしない。
どれほどの時間がたったかも忘れた頃、テツオが死んだ。
スイッチをして回復しようとポーションを開けた所で、後ろから近づいたモンスターに背中をバッサリと切り裂かれた。
その後、すぐにササマルがしんだ。
怒りに任せてつきだした槍はゴーレムを殺すには至らず、突き刺した槍と共に体を両断された。
わたしも、しんじゃうの?
死にたくないよ……恐い、恐いよ。
――生きたいのか、死にたくないのかどっちだ?
心の中で、響き渡ったのはあの時の会話。
震える腕でしっかりと盾を握りしめた。あの時のことを思い出せ。
一撃・ニ撃と降り注ぐ猛攻をなんとか防ぎきる。
反撃をしようかと考えた所で、背後からにさっと影が迫ってきた。
咄嗟に体を反転させ、振り下ろされたピッケルを弾き返した瞬間、盾が質感に似合わぬ音を立て、爆散した。
拠り所を失った左手が空中を彷徨う。
盾に阻まれていた視界はスッキリとクリアになった。
ケイタのスキルエフェクトが左の隅で見えた。
――サチ、もうちょいだ。頑張れ
ごめんね。私が死んじゃったら私達パソコン同好会はケイタだけになっちゃうよ。
右からは、キリトが手を伸ばし、必死に叫んでいる。
――君は、俺が守る
そう言って私を安心させてくれた瞳は恐怖に染まりきっている。
私は、私のいなくなった世界を想像した。
キリトは私が死んだのを自分のせいにするかもしれない。
ケイタは私たちの後をおって、このゲームから降りてしまうかもしれない。
二人とも、私の死を枷にしてしまうだろう。
クロウがそうであったように。
そんなのは――嫌だ。
このままじゃ――ダメだ。
――生きたいのか、死にたくないのかどっちだ?
答えなんて決まってるよ。
口が動く。
咄嗟に、一言
「私は――生きたいよ」
崩れた態勢で、右手の剣を振るった。
お守り程度の重量。いつもはほとんど振るわない私の愛剣はきっと寂しくて面白くなかったに違いない。
だけど、お願い。この瞬間だけは言うことを聞いて。
「やあああ
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