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紅き少女
序曲その1

[2]次話
平穏なんてすぐに崩れてしまう
それはあっけなくて脆いものだ





少女は走っていた
肩で息を切らしながらひたすら足を動かす

場所は人気のない裏路地の中
周りの建物で日の光が遮られ辺りは薄っすらと暗かった
先の見えない迷路のような道をただ漠然と進んでいく

少女は追われていた
形容しがたい奇妙で巨大な異形から

ガラクタをかき集めてできたような外見
見れば手と足の部分がある

異形は『待チヤガレ』と物騒な言葉を吐きながら
物凄い勢いで突進してくる

明らかに意思を持った生きた物だ
こんなバケモノは生まれて初めてだ

少女は重い体を必死に動かした
動きがだんだん鈍くなっていく足に
もっと走れと命令する
もう体中が痛い。肺が苦しい。

酷く乱れた呼吸音と心拍数が上がっていく心臓の音が
やけに耳につく

曲がり角を曲がり左右の分かれ道を進み
少女は自分がどこに進んでいるかさえも分からなかった

その先にあったのは…



行き止まりだった

前方に大きな塀の壁

もう絶体絶命だった
今更引き返そうなんてできない

絶望しかなかった

『運ガ悪カッタナァ…』

背後で異形はにたりと歪んで嗤う

少女は壁に背を預けて鈍く痛む脇腹を抑えた
汗粒が頬をつたい滴となって落ちる

――私はこれで終わってしまうのか…
なんてあっけない

何か叫んで飛びかかろうとする異形を
まるで他人事のように少女は眺めた

生きるのを諦めた虚ろな少女の瞳に映ったのは
自分の血しぶき――ではなく

二人の黒い人影だった
[2]次話


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