第一部
第二章 〜幽州戦記〜
十九 〜宴の夜〜
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「ふう、気持ちいいなぁ」
「…………」
私は黙って、夜空を見上げた。
天を埋め尽くさんばかりの、無数の星が煌めいている。
天文の心得はないが、心は洗われる、そんな趣がある。
「あのさ。一つ、聞きたいんだけど」
「何か?」
「どうして、私をそこまで買ってくれるのだ?……自分で言うのも何だけど、私は飛び抜けたものが何もないんだぞ?」
「言った筈だが? 裏を返せば、何でもこなせる器用さの証拠だとな」
「でも、それじゃ私が普通普通と言われているのも当然、ってなるじゃないか」
まだ、吹っ切れておらぬか。
「ならば、貴殿は一芸に秀でた人物と認められたい……そうなのか?」
「そ、そう言う訳じゃないけど」
「良いか、公孫賛。一軍の将として、何かに秀でるのは良い。だが、上に立つ者全てが優秀である必要は何処にある?」
「それは……」
「自らが配下を引っ張り、己が力で国を作り上げていく。それも良かろう。だが、裏を返せば、配下が育つ必要はないと言う事にもなる。一代限りであればともかく、後の世はどうなる?」
「後の世……?」
「そうだ。始皇帝がいい例ではないか。なるほど、始皇帝自身は優れた主君であった。だが、次代はどうだ?」
「呆気なく瓦解した……か」
「そうだ。公孫賛は、己を正しく弁えている。大陸に覇を唱えるつもりならば、確かに貴殿では荷が重かろう」
「……そう、はっきり言われるとへこむなぁ」
「だが、限られた範囲で人の上に立つのであれば、全く不足ではあるまい。勿論、それだけではない」
「まだあるのか?」
「ああ。その誠実さ、実直さは、欲が先走る輩には望めぬ類いのもの。だからこそ、私も皆も、貴殿に協力を惜しまぬのだ」
「……そうか。そんな風に、評価された事がなかったからな。私は私の良さがある、そう言う事か」
合点がいったようだな。
「なら土方。お前はどうなんだ?」
「私か?」
「そうさ。腕も立つ、頭も切れる。おまけに、あれだけの将を従えているじゃないか。……正直、天は何物与えたんだよ、って言いたいぐらいだ」
「そうかな? 私は、腕は星や愛紗らには及ぶまい。軍略は稟に、謀略は風に劣る。一軍を率いるのも、霞には勝てぬさ」
「う……。ま、まあ、アイツらは桁外れ過ぎるからな。でも、私から見れば、今の刺史や太守でも、土方程の器量を持った奴はあまりいないぜ?」
「ふっ、私にも及ばぬとは。よほど、官吏も人材不足と見えるな?」
「血縁と金が全てだからな。……だが、気をつけた方がいいぞ、土方」
公孫賛は、声を潜めて言う。
「ほう?」
「お前が、今の朝廷をどの程度知っているかはわからないが。恐らく、これだけの戦果を上げたんだ。何らかの沙汰は下るだろう。例えば、県令か、あるいは私のよ
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