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ラインの黄金
第一幕その五
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第一幕その五

 その服を着た金髪に青い目の年増の女が動いていた。整っているが中年特有のでっぷりとしたものがありそのうえ顔立ちはきつい。その女が言っていた。服はドレスであった。
「我が夫よ」
 眠っている男に声をかける。顎鬚を端整に生やし髪は後ろに撫で付けている。左目には眼帯をしておりそれがやけに目立っている。右手には槍がある。その服は白いスーツでありネクタイもそれだ。そして白いコートも纏っている。
「起きて下さい、ヴォータンよ」
「その声はだ」
「そうです、私です」
 こう彼に答えるのだった。
「フリッカです」
「そうだったな」
「貴方の妻である」
 こうヴォータンに対して言うのだった。
「お忘れではない筈です」
「忘れる筈がない」
 夫は言いながらその妻に答えた。
「御前のことはな。何があろうとも」
「さて、どうなのでしょうか」
 だがフリッカはこんなことを言いながら起き上がってくる夫に対してあまり信じていないような顔と声で返すのだった。夫を疑う様をわざと見せるようにしてだ。
「それは」
「信じないのか?私を」
「以前に色々ありましたから」
 今度ははっきりと夫の過去を責めてきた。
「そう言って何度不実をしてきたのか」
「そんなことは忘れた」
 だがヴォータンはそれはしれっとかわしてしまった。
「私はノルンではない。過去には囚われない」
「では未来のことは?」
「考えている」
 こう答えるのだった。
「しかとな」
「どうでしょうか。現在ですらあやふやだというのに」
「現在もとは言うものだな」
 今度は彼が妻のその言葉に抗議してきた。
「私は現に今我等の為にだ」
「ではフライアを何故」
 フリッカの言葉はいよいよ抗議の色を強めてきた。
「私に安閑とした時を喜びに費やすことを許さず約束の報酬を与えてくれないのですか?」
「それはどういうことだ?」
「彼等との約束の時が来ました」
 妻はまた言った。
「そうすればフライアは」
「そのことはわかっている」
 言葉を返しはするが憮然としたものだった。
「あの城を築かせる為にはな。フライアを出すしかなかったのだ」
「御自身の御力でそうすればよかったのに」
「城を築くのは奴等が一番だ」
 こう言って自己を弁護するのだった。
「奴等がな」
「それは私もわかっています」
 フリッカとて知らないことではなかったのだ。それは。
「ですがそれでもフライアを差し出すなどとは」
「懐柔する為だ。さもなければ奴等も従わなかった」
「ではフライアは?」
「心配には及ばん」
 ここでまたしれっとした言葉を出してみせるのだった。
「報酬のことなぞどうとでもなる」
「何という人なのかしら」
 だがフリッカは夫のその言葉を聞い
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