第三章
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「あ〜〜あ、また負けたぜ」
「打っても打ってもな」
確かに打線は打っているがただホームランを打っているだけだった。史上最強打線という荒唐無稽で滑稽なまでに愚劣かつ浅はかな名称の打線はホームランだけだった。つなぎもなければ機動力もない。尚且つ監督の稚拙というのもおこがましい幼稚な采配の結果敗北が続いていた。そして親会社の不祥事というよりはそのオーナーの暴言の連続もあり新聞自体の発行部数も暴落していた。どれもゲーリッグの責任ではないのだがそうした話にはならず何故か彼も批判されるようになっていた。
「あいつ優勝請負人だよな」
「いつもどうでもいい場面に打ちやがって」
あのチームのファンが口を尖らせていた。彼等は日本の中でもとりわけ薄情かつ野球について無知なことで知られている者達である。野球をわかっていない野球ファンであるのだ。
「七億も払ってこれか?」
「無駄金じゃねえか」
こんなことさえ平気で言うのであった。
「走るのも遅いし守備も悪いし」
これは歳のせいである。
「送球だって下手だしな」
一度ミスしただけで言っているのである。
「何なんだよ、あいつ」
「ホームランっていってもソロだけじゃねえかよ」
「役立たずが」
挙句にはこんな言葉まで投げつけられた。
「あと一年いるんだよな」
「二年契約だからな」
「いらねえいらねえ」
知能も心もない罵倒はさらに続いた。
「これでホームラン王なんだからな」
「馬鹿な買い物したよ」
勿論こうした話はゲーリッグの耳にも届いていた。彼はこのことに不快感を感じていたがそれを押し殺して己の野球を続けた。その結果彼はホームラン王になり打点もかなりのものになったがそれでもチームはBクラスだった。真の野球ファン達にとっては喝采ものであった。
「また優勝できなかったな」
「あいつは最高の監督だな」
また監督が嘲笑われていた。
「何時までも続けて欲しいよな」
「ゲーリッグもな」
これはあのチームのファンの自嘲の言葉であった。
「あと一年いるのかよ。早く辞めてくれよ」
「七億の置物だよ」
「邪魔だよ、邪魔」
優勝できなければこうした言い草であった。
「どれだけ凄いかって思ったらな」
「ソロホームランだけだな」
さらに言われる。
「あんなんでよく打点王なんて取れたよ」
「チャンスで打てよ」
打っているが優勝して、勝って当然と妄信している彼等にはわからないのだ。見える筈のものすら見えなくなってしまっているのである。滑稽なことに。
「来年もあいつの顔見るなんてな」
「うんざりだよ」
これはネットでも書かれていた。当然ながらゲーリッグもそれは見ていた。彼はそうい
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