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第七話 赤い洗礼
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あ、君にとっては些末なことだろうけど」
「あの、『赤い洗礼』が、ずいぶんと、こだわるな。お前は、ただ、この世界を楽しむ、だけではなかったか……?」

今まで黙っていたザザが言うと、赤コートのカタナ使いは肩をすくめた。

「こんな俺でも、責任を感じることがあるんでね。――それで、結局のとこ、どうなの? 知ってんの、知らねぇの?」
「知らない、と……答えたら?」

ザザの回答に、『赤い洗礼』は即答する。

「それなら、もう用はないなぁ」

なんでもないような一言。次の瞬間、ザザが唐突に上半身を反らした。
ザザのHPが、なんの前触れもなくわずかに減少する。そこでカズラは『赤い洗礼』のカタナが今の一瞬で移動していることに気づいた。
いつ攻撃した、とカズラは驚愕する。

たとえ『赤い洗礼』が敏捷度に特化したステータスをしているとしても、攻略組プレイヤーならば剣筋が全く見えないなどということはない。
どこか緊張感のない、ゆったりとした言葉遣いと大袈裟な立ち振舞い――その二つが動きの速さを際立たせているのだ。

「あら、避けられた」
「お前の戦い方は、よく、聞いているからな」

ザザが余裕の笑みを漏らす。
そして再び唐突に、ザザは後ろで別のプレイヤーと戦っていたラフコフメンバーを掴み、自分の前へ引っ張り出した。

何度聞いても慣れない、破砕音が響く。

「――へえ、ホントに対応されてるわ」

どこか感心したように呟く『赤い洗礼』は、振り下ろしたカタナを引き戻した。その声にはたった今、プレイヤーを殺したと思えないほどいつも通りのものだった。

『赤い洗礼』がカタナを引き戻しているうちに、ザザとジョニー・ブラックは後方へ後退していた。
逃げたか、と『赤い洗礼』が首を振る。

「じ――」
「黙ってなよ、『刀姫』。それに君、邪魔だから下がれ。あとはぜーんぶ、俺がやってやるからさ」

カズラの言葉を遮るように、『赤い洗礼』が肩口から振り返って告げる。その拍子に一瞬、フードの下の顔が見えて、カズラは複雑な心境に陥った。

助けに来てくれたと思う反面、今までの会話の内容は無視できないものだった。
そして今の言葉……それはすなわち、ずっと見たかった彼本来の実力を、見たくなかった場面で見ることになるということだった。

「俺も暇じゃないし、さっさと片付けたいんだよね。だから、今更殺人がどうのなんて言い出すなよ」
「っ、まっ――」

カズラが手を伸ばすが、その手はなにかを掴むことはなかった。

「…………ジル……」





相変わらず甘いヤツだ、と思わず苦笑してしまう。
俺はカズラの制止を聞く前に、早々にあの場を去った。彼女の説教臭い言葉を聞けば決意が鈍るし、居たたまれないのだ。

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