暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン 穹色の風
アインクラッド 前編
恐怖の元凶
[1/5]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 数時間前の戦意や闘志がすっかりと消え失せたトールバーナ中央広場に、どこか気の抜けた足音が響いた。先ほど、今は亡きディアベルの代役として、彼の率いたC隊の一員であるリンドが噴水の縁に登り、解散の声をかけたが、本来起こるはずであっただろう歓声や拍手は、遠くから鳴り響くNPC楽団による演奏の大きさとさして変わらないほどに貧弱で、とても攻略が成功したとは思えない。

「さて、俺たちも帰るか」
「…………」

 マサキは答えが返ってくる前に歩き出した。遅れて、無言のままにトウマが後を追う。戦闘後、トウマは終始無言で、その顔には時折ちらつく陰が浮き出ている。周囲のプレイヤーは彼の表情をボス戦の疲れによるものと解釈し、また自らも疲弊していたために、特に気にする素振りを見せることはなかった。
 しかし、これまでに何度もこの表情を見てきたマサキは、大きな懸念を抱いていた。
 今まで彼がこの状態になった時、そのほとんどは非戦闘中で、そのために戦闘への悪影響はほぼなかった。だが、これからもそんな幸運が続くという確証はない。もし彼が戦闘中に不安定な状態に陥り、修正が間に合わなかった場合、それがきっかけとなって二人ともゲームオーバー、などというBADENDも、十分に考えられうる結末なのだ。いくらマサキでも、目の前でそれなりに深い付き合いの人間が死んでしまう事態は、あまり寝覚めのいいものではない。そうなる前に原因を取り除くか、あるいは彼と別れる必要がある。

「トウマ、一体何があったんだ?」
「いや、何でもない」

 マサキが探りを入れるが、返ってくるのは要領を得ない返事ばかり。何か長文を話してくれれば、マサキの洞察力は真実の扉を少しでも開くことが出来るのだろうが、ここまで口数が少ないとそれも不可能だ。
 マサキはこれからを憂い、小さく溜息をついた。頭の中に渦巻く、いつもの自分との思考回路の差には気付かずに、宿への歩みを進める。この瞬間、マサキは今日を休養日とし、攻略は明日から望むことを決定した。
 マサキたちを見下ろす太陽は、既に半分ほど傾いていた。


 仮眠前に設定しておいたアラームがゆったりとしたロックを奏でるのを、トウマは重い布団の中で、目を開けたまま聞いた。素早くウインドウを操作して音を止め、しかし体は布団から抜け出そうとしない。
 部屋の外では、冬の短い日照時間が既に終わりを告げ、星のない闇が広がっている。夕食の時間が差し迫っている証拠だ。

 トウマは、硬いベッドの上で寝返りをうった。ちらりと瞳を移動させ、時計の針を見る。もう約束の時間まで、10分もない。

 ――いっそ、このまま隠し通してしまおうか。
 今まで何度も頭をよぎり、その度に切り捨ててきた誘惑が、かつてないほど甘いささやきをトウマの心に送り込んだ。その甘言に、
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ