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ソードアート・オンライン 穹色の風
アインクラッド 前編
恐怖の元凶
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心は今までで一番大きく揺らぎ、惑う。

 ――いや。
 トウマはその誘いを振り払うようにして跳ね起きる。彼が時折見せる言動から、彼の頭脳が相当に明晰だろうことは分かる。例え今隠したとしても、そう遠くない未来に、必ず見抜かれてしまうだろう。
それだけならまだいい。だがもし、その事実が周囲の者に露呈してしまった場合、自分だけではない、自分を開始直後のパニックから救ってくれた彼まで、(いわ)れのない誹謗中傷を受けてしまうかもしれない。それだけは、絶対に避けなければならないことだ。今自分が行動を起こせば、まだ間に合うのだから――。
 トウマは震える心から勇気を振り絞り、宿一階の食堂へ繋がる階段を下りた。


 トウマが葛藤の末に食堂へ向かう10分ほど前、マサキは初期設定の無機質なアラーム音で意識を覚醒させた。設定をいじれば自分の好きな曲を流せるらしいが、所詮これはアラーム。起きられれば何だって構わない。マサキは一度伸びをすると、首筋に手を当てながら、トウマとの夕食を約束した刻限の15分前に食堂へ向かった。

「お待たせいたしました」

 ウエイトレスから受付までをこなす女性NPCが、湯気の立つコーヒーカップをマサキの前に置いた。彼女が一礼して下がり、マサキはコーヒーカップに注がれたカプチーノに口をつけた。

 久々となるコーヒーを胃に送りながら、マサキは少し顔をしかめた。
 このSAOでは、現実世界の飲食物のうち、ポピュラーなものは大体が再現されている。食べ物で言えばパンやサラダ、飲み物では紅茶やコーヒーなどだ。何故かその中に白米や緑茶が入っていないのは、この世界観を壊すと判断されたためか、ただ単に茅場が日本食を嫌っていただけなのか。
 茅場の真意は不明だが、プレイヤーの中には、その一点に対して相当な不安を持っている者が少なからずいた。彼らは戦闘の傍ら、「料理スキル」なるものをひたすらに上げ、白米の生産に挑戦したものの、熟練度が足りないのか、ことごとく失敗した。挙句の果てに、耐えかねたプレイヤーが暴動を起こしかけたのは、記憶に新しい事件である。

 閑話休題。
 マサキが不機嫌になった理由は簡単、カプチーノの味のせいだ。
 このSAOで料理を食べる手段の一つとしてNPCレストランが存在するわけだが、この質が酷い。今マサキがいるレストランはかなりマシな方だが、それでも現実で店をやっていけるレベルではない。今目の前にあるカプチーノも同様で、マサキが現実で飲んでいる、高級豆を高性能コーヒーサイフォンでじっくりと淹れたものとは天と地ほどの差がある。マサキは効率や合理性を重視するが、仕事中に飲むコーヒーは作業の精度に関わってくる物である為、こだわりを持っているのだ。

(まあ、ないよりはマシか。アルゴの情報だと、層が上がれば質も
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