A's編
第三十一話 前
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ろう。何よりアリシアちゃんは、僕たちの家に来て初めてのクリスマスだ。どうせなら、本場のパーティに参加させてあげたい。
「うん、わかったよ。父さんと母さんはわからないけど、僕は参加するよ」
僕がそう答えるとぱぁ、と満面の笑みを浮かべて「絶対よっ!」と念を押す。
久しぶりに見たアリサちゃんのその笑顔が見られただけでも、埋め合わせということを抜きにして、承諾してよかったな、と思うのだった。
◇ ◇ ◇
「クロノさん、どこまで行くんですか?」
「その先だよ」
不安そうにしているはやてちゃんの代わりに僕が聞く。
僕は、今、はやてちゃんをエスコートするように手を引きながら階段を上っている。もちろん、はやてちゃんは、車椅子であり、それを補うためにクロノさんが浮遊魔法を使って車椅子を浮かせて移動しているのだ。僕が手を握っているのは車椅子が浮いているという状況に不安を抱いているはやてちゃんを安心させるためである。
今日は、12月24日。闇の書を封印する日である。先週から一週間、無事にこの日を迎えられたわけではない。
あの手紙の事件から三日後、一度はやてちゃんが倒れた。苦しむように胸を押さえたと思ったら意識を失ったのだ。あの時は、本当に動揺した。幸いにして上下している胸が彼女が生きていることを示してくれたが。
アースラの担当医師によると、どうやら闇の書からの浸食の影響らしい。封印するために闇の書の完成が近づいてきたのだが、それでも十年近く闇の書から魔力を吸い取られているはやてちゃんのリンカーコアは、相当に負荷がかかっているようであり、そろそろ限界らしい。
僕は完成まで病院で見てくれ、と懇願したのだが、それは相談したクロノさんにも首を振られてしまった。
理由は、病院でも打つ手がないからだ。対策としては闇の書を完成させるしかない。そのため病院にいてもしょうがない。むしろ、環境を変えることでさらに心身に不安を与えることが怖いのだとクロノさんは語った。
「むしろ、君が手を握ったほうが彼女は安心するんじゃないか?」
とクロノさんらしからぬ冗談を口にしたものだから、僕は逆に驚かされてしまった。もっとも、その話を聞いていたのか聞いていなかったのか、ちょっとだけ意識を取り戻したはやてちゃんが、僕の名前を呼んで、手を握ってとうわごとのように言われてしまれば、握らないわけにはいかない。
しかも、その効果は、直後にはやてちゃんが安眠するほどなのだからいかほどだろうか。確かに手当という言葉には本当に患部に手を当てることで痛みが和らぐことから来るとは聞いたことがある。そのため、人と人の接触には何か効果があるのだろうが。はやてちゃんにとって僕は安定剤か何かだろうか。
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