A's編
第三十一話 前
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んから距離を取ることもできないようだ。その声には強い怯えを含んでいた。クロノさんへの最初の怯え以上の怯えを。
「ま、まさか……わたしとショウ君が出会ったんも―――」
「図書館での出会いなんてべただと思わない?」
「あの家を襲ってきた人たちも―――」
「自作自演って言葉が世の中にはあるらしいよ?」
「ショウくんのあの言葉も―――」
「彼は夢見る少女が望む言葉なんて星の数ほど諳んじれるよ」
はやてちゃんが、一言一言問うたびに声の中に恐怖の部分は色濃くなり、クロノさんが答えれば答えるほど嗤いの色を強くする。まるで、掌で踊っている道化をあざ笑うように。夢見る少女の夢を壊すことが心底愉快であると言わんばかりにクロノさんは嗤う。
「さて、これで終わりかな? 偽りと茶番劇に満ちた一か月を十分に楽しめただろう」
不意に声色から嗤いが消える。本当にこれから半生半死にしたはやてちゃんごと闇の書を封印するという真実味を増すには十分すぎるほどだった。
逃げてっ! と叫びたかった。しかし、体がいうことを聞かない。それどころか、だんだんと意識があいまいになってくる。まるで眠る直前のように。これがリンカーコアから何かが抜かれた影響だろうか。
だが、僕のそんな様子を全く無視して、クロノさんはゆっくりとはやてちゃんに近づく。僕には彼女の恐怖がいかほどか想像しかできないが、それが限界値を超える恐怖であることは容易に想像できた。
「そんなに夢の世界がよかったなら、ユメの続きは封印の中で見るといいよ。そこは永久に終わらないんだから」
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
はやてちゃんの悲鳴を最後に僕が意識を失う直前に耳に入ってきたのは、どこか機械的な『Freilassung』という言葉だけだった。
つづく
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