A's編
第三十一話 前
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ことを確認してからもう一度靴箱を開いた。
そこに広がる光景は変わっていなかった。昨日の帰宅時と同様にちょこんとおいてある僕の上履き。それは何も変わらない。変わっているのは、まるで上履きをさえぎるように立ててある一枚の封筒であった。
A4サイズの紙を公共の機関に送るような無骨な茶封筒ではない。手紙をやり取りするときのような薄いピンク色の封筒。可愛い犬のシールで手紙は封がされていた。
手紙用の封筒などペンフレンドでもいれば、持っているのだろうが、生憎ながらメールでほとんどのことが住んでしまう世の中になってしまった以上、僕たちが多用することは少ないのではないだろうか。
そんな珍しい代物が僕の目の前にあった。それを青春時代の一ページに明るい記憶を付け加えるための招待状か、あるいは笑い話にもならないページを付け加えるための招待状と勘違いしてしまうのは、僕が小学生しからぬ思考回路を持っているからだろうか。
そのどちらにしても、この下足場で上履きもとらずに立ち止まっているのは視線を集めてしまう。今も徐々に僕にチラチラと視線を向けてくる生徒がいる以上、これ以上立ち止まっていてはいらぬ関心を呼んでしまうだろう。
僕は、上履きに立てかけられるように置かれていた手紙を誰にも見られぬようにカバンの中に突っ込むと、下足場から上履きを取出し、下ばきと履き替えて何食わぬ顔でその場を後にした。
そのまま、僕が向かった先は教室―――ではなく、屋上へと続く階段の踊り場だ。しかも、教室がある校舎ではなく音楽室や美術室などがある特別校舎の屋上への階段の踊り場だ。実は、教室がある校舎の屋上は開放されているが特別校舎のほうは開放されておらず、結果として人が少ない。だからこそ、こういう内緒ごとをするにはピッタリな場所なのだ。
いつも通りというべきだろうか、僕が目的地としていた階段の踊り場には誰もいなかった。もっとも、季節が冬であることを考えるともともと誰かがいる可能性はゼロに等しいのだが。
誰もいないことを確認した僕は、早速カバンの中に放り入れた手紙を取り出した。薄いピンク色の封筒は適当に放り込んだ割にはまがったところはなく、そのままの姿だった。実は、放り込んだ後、ずいぶん適当だったということを思い出してくしゃくしゃになっていないだろうか、と心配になったのだが、幸いにして杞憂で済んだようだった、
まずは封筒の封を開けずに裏と表を見てみる。この手紙にはありがちなように『蔵元翔太様へ』という一文はあったが、差出人の名前はどこにもなかった。その形式美というものが、もしかして、という期待と一緒に僕の胸を高鳴らせる。
どこかの漫画にしかないようなシチュエーションだが、一種の浪漫も感じるではないか。さすがに平時には過去の経験も合
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