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戦国御伽草子
参ノ巻
守るべきもの

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を思い出したらしい。恐ろしそうに暗闇から目を逸らし、袖を口元にあてた。


「私お話に夢中になってしまいましたわね。もう、戻りますわ」



「待った由良。佐々家内とはいえ時間も時間だし、あたし送っていくよ」



 由良はこくりと頷いた。



 部屋を立つ時に、由良は言った。



「瑠螺蔚さま、私、瑠螺蔚さまが居てくださって本当に良かった」



「え、なに、急に」



「三浦さまとのことは、佐々家と三浦家の間での正式なお話ではありません。きっと、母上さまも、父上さまも、兄上さまたちも、このことを知ったらみんなお怒りになると思うのです。今日三浦さまに言伝(ことづて)を頼まれたのが瑠螺蔚さまでなければ、お会いすることは叶わなかったでしょう。瑠螺蔚さまは以前も、徳川家との縁談が出た際に私を助けて下さいました。家や大義名分よりも、私のことを考えて下さる瑠螺蔚さまが、私大好きですわ」



 由良は口元を隠すと、楽しそうにふふと笑った。



「いや、まぁ、あれよ。あたしはいつでも由良の味方だからね」



 なんだか照れて、あたしは頬を掻きながら言った。



「存じておりますわ。ねぇ、瑠螺蔚さま。瑠螺蔚さまは高彬兄上さまのことをどう思っておられるのですか」



 いきなり高彬の話になって、あたしは目をしばたかせた。



「ちょっと、どこから高彬が出てきたのよ!」



「いいではないですか。私は三浦さまをお慕いしております。瑠螺蔚さまも、兄上さまをお好きですか」



「ええ?」



「兄上さまのこと、お嫌いですか?」



「嫌いなんて事は、ないけれど…」



「ではお好きなのですね?」



「好き…」



 高彬のことは、好きか嫌いかで言ったら、それは好きな部類になるだろう。気安いし。でも、恋愛の意味で由良が三浦を想うように好きかと言われたら、それとはなんだか、違うような気もしなくもない。



『好きだ。瑠螺蔚さん。ずっと好きだったんだ…』



 ふと高彬の言葉が甦ってあたしの顔は一瞬で熱くなった。



 や、やだなー。なんで今思い出す、あたし。



 手の甲を頬にあてて冷ましていると、由良がここぞとばかりに詰め寄ってくる。



「妹の私が言うのもなんなのですが、兄上さまは心もお優しく見た目も織田の若殿に遜色(そんしょく)なく一番の出世頭と言われており、いずれは佐々の頂を競われるお方。瑠螺蔚さまが兄上さまをお嫌いでなければ、ご結婚なさるのになんの支障がありましょうか」




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