第十四章
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』
伊佐木の喉が鳴る音がした。膝を抱えていた八幡が、ふいに立ち上がって何か言いかけるのを、紺野さんが口を塞いで取り押さえる。…八幡が大人しくなったのを見計らって、話を続けた。
「こんなこと聞くの、無駄かもしれないけど。…これ、全部あなたの指示ですか?」
『……なんだそれは』
それはもう、さっきまでのような凛とした声じゃなかった。心拍数の高まりと呼吸の荒さを露骨ににじませた、上ずった声だ。
「訳わかんない、ですか」
『…一から十まで、分からないことだらけだよ』
押し殺したような声で答えて、最後に低い笑い声を付け足した。
「そうですね。…少なくとも思慮深い人が、こんな危ない橋を渡ると思えない。うまいこと紺野さんを海外に追い出して武内さん殺しの汚名を着せたとしても、今度は杉野さん殺しも処理しなきゃいけないんだから」
『……君は一体、誰だ?』
「紺野さんの、友人です」
それだけ言って、携帯から耳を放した。紺野さんの手に戻る頃には、携帯は切れていた。
「取り引きは、反故かな」
「願ったり叶ったりだ。あんなカレー臭い国でマハラジャとして余生を過ごす趣味はねぇ」
「えー、いいじゃん、マハラジャ。友達がインドでマハラジャやってるって自慢したーい」
柚木がマハラジャに食いついた。…なんでマハラジャの友達が欲しいんだ。そんなもん自慢したら、自分まで不思議な人種だと思われちゃうじゃないか。
「なんで君のオモシロ人脈を充実させるために、俺が人生賭けるんだ。ガンジスのおいしい水で淹れた珈琲を毎日飲めというのか」
「インド人全員がガンジスのほとりで生きてるわけじゃないよ…」
軽めに突込みを入れてから、八幡と目を合わせた。…八幡は、もじもじしながら視線を自分の膝に落とした。
「…なんですか」
「あのさ…伊佐木って人、多分、烏崎のやってること知らないよ」
「なっ…!!」
八幡が、ばっと顔を上げた。
「そ、そんな…だって…」
「大まかな指示は出しただろうね。…紺野さんのやってる事を突き止めろ、とか、MOGMOGを奪えとか。だけど烏崎が拉致や殺しにまで手を染めたことは、多分知らない」
「…なんで、そんなことが分かるの」
「杉野さんのことを持ち出した途端、簡単に動揺した。…あんな慎重な人が、この件で一番の爆弾とも言える杉野拉致について、なんの理論武装もしてないなんて変だ」
僕の言葉が終わらないうちに、八幡は背骨がぽっきり折れたみたいに崩れ落ちて、そのまま動かなくなった。…どんな顔をしていいのか、分からなかった。それはまるで、遠い昔の僕自身を見ているみたいで…。
「だから言ったんだ…これからどうするんだ。ひとまず、俺達と行動するか。…おい、大丈夫か、おい…」
紺野さんが八幡の頬を、手の甲で軽く叩いた。八幡は少し傾ぐだけで、何の反応も示さ
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