第十四章
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「…ビアンキに触れることが出来たら…僕は生きてるって、伝えてよ」
「私は見届けるだけ。修正は私の管轄じゃないし、リスクも大きい」
「そう…」
会話が途切れて、ボイラーの稼動音だけが響き渡る。柚木の掌が、ずっと僕の背中を撫でてくれていた。…ばれるの、嫌なくせに。僕は僕で嫌になるほど、元気だったビアンキの笑顔が、頭から離れない。
沈黙を破ったのは、紺野さんだった。
「……八幡」
「……はい」
「知ってたのか、杉野のこと」
「……ごめんなさい」
「そうか」
僕らを追い詰めたあの夜、八幡が言った事を思い出した。
―――私たちは、人殺しになってしまう。
「彼が死んだのは、昨日の夜なんだろ。僕らを追ってた時は、まだ死んでなかった」
「…はい。帰ったら亡くなってたんです」
「八幡。お前も、手伝わされたのか」
「最初は、鋸、持たされました。でも手に力が入らなくて…切断された手とか足を、洗って毛布で包んで…これは悪い夢なんだって、無理やり思い込んで」
息をついて、膝をかかえて顔を埋めた。
「もう終わらせたい…警察でもいい、死刑でもいいから」
声が震えていた。このまま消えてしまいたいみたいに、小さく縮こまってしゃくりあげた。
「たく…自分より馬鹿な奴見てると、逆に冷静になってくる」
冷めかけた珈琲を一息にあおって、紺野さんが顔を上げた。
「昔誰かに教わった道徳観念にがんじがらめになって、大事な決断まで人任せにして、そんなこと繰り返してりゃ、いずれ痛い目をみるに決まってるだろうが」
僕も、八幡を見ていて同じ事を思っていた。そしてそれは、八幡自身も分かっていることで、今更紺野さんが何を言っても、心をびっちり閉ざして涙ぐむだけだ。そう思っていた。
でも八幡は、意外にもゆっくり顔を上げて微笑んだ。とても弱々しく。
「どう思われても仕方ないです。…でも、一言だけ言わせてください」
「……何だ」
「あの人を信じることだけは、私が選んだ。…それだけです」
それだけ言って、また顔を伏せた。反論も、説得も受け付けないだろう。そして何があっても『あの人』とやらを裏切れない。…こういう生き方しか、出来ない人だ。
「誰なんだよ、あの人って」
空になったカップをもてあそびながら、ふんと鼻を鳴らした。八幡が答える気配はない。またこの場を沈黙が満たしそうになった瞬間、紺野さんの携帯が鳴った。着信を覗き込んだ紺野さんの表情が、険しく歪んだ。
「……伊佐木!!」
『…実に、嘆かわしいことになったね』
初めて聞くその声は、常に中くらいのトーンを保ちながらも、ひどくよく通る声だった。まるで、多くの人に聞かせる事を前提に発声しているような、そんな声だ。
「あんたがそれを言うか。誰のせいでこんな事態が起こったんだ」
『なんの話かな?』
凛
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