第二部
何者か
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「・・・こ、此処は・・・?」
イタリアのリゾート島、サルデーニャ島。時刻は18時。日本では古来より逢魔時と呼ばれ、妖怪などの悪しき者が現れると恐れられた時間である。沈んでいく夕日に照らされて輝くその美しい島の海岸に、流れ着いた人影があった。
「はぁ・・・はぁ・・・カハッ・・・!」
その人影は、酷く消耗していた。体は海水に濡れ、手で押さえつけている脇腹からは血が止めどなく溢れ出ている。吐血もしており、これ程の怪我をして海水に浸かるなど、一般人ではそれだけでもショック死しかねない程重症であった。
ゴポ・・・ッ!
泡が弾けるかのような、鈍い音が響く。もしもその光景を見ていた者がいたのなら、目の前の光景を夢だと疑うか、逃げ出すか、それとも錯乱して襲いかかってくるか。恐怖で動けなくなるかもしれない。それ程に恐ろしい光景であった。
「何で・・・こんな怪我を・・・?」
その人影の姿が、一瞬だけ変質したのである。何に変質したのかと聞かれても、答えられる人間はいないであろう。地上で、今のような変化が可能な生物など存在しない。軟体生物のような触手が生まれた。剣のように硬質な棘が生まれた。大小様々な目が生まれた。ドス黒い霧のような何かが吐き出された。
・・・どうしても今の姿に名前を付けるのなら、『混沌』という言葉が相応しいのではないだろうか?
体が波打ち、蠢き、崩れて再生する。一般人がこの光景を見たのなら、まず間違いなく正気ではいられないだろう。魔術という、この世の裏の顔を知る者たちでさえ、それは正視に耐えない光景だったのだから。
「・・・私は、一体何故こんな場所に・・・?そもそも・・・。」
その変化は劇的であった。
先程まで深く抉り取られていた脇腹の傷、それ以外の、大小様々な火傷。それら全てが、一瞬にして消え去ったのである。そこには、既に一人の少女しか存在しなかった。
「そもそも・・・私は誰でしょうか?」
服から水を滴らせながら、彼女は疲労が見える緩慢な動きで立ち上がった。
美しい少女である。
腰の辺りまで届く流れるような銀髪は水に濡れてキラキラと輝いており、夕焼けに染まる海の鮮烈な橙色の中でも存在感を失わない。その顔は、見るものを惹き付ける不思議な魅力を宿しており、スラリと伸びた健康的な手足が、その存在を主張している。魔性を秘めたこの少女の前では、地上のどんな美女でも霞んでしまうだろう。
「・・・何か、やらなければいけない事があったような・・・・・・。」
少女は、自分の正体も、目的も、居場所すら分からない状態で歩きだそうとする。俗に言う記憶喪失だというのに、焦ったような様子はまるで無かっ
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