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戦国御伽草子
参ノ巻
守るべきもの

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「待ちなさい、速穂!それはどういう…」



 すっと障子が開いた。荒れる大海原を睨み付けているような厳めしい顔の速穂児が、さっとあたしの背を押しながら歩き出した。



 ちらりと見たその後ろでは、村雨の奥方が放心したように座り込んでいた。



「行こう」



「…いいの?」



「いい。言うべきことは言った」



「速穂!」



 そのとき、あたしさえびくりと肩を(そび)やかすような鋭い声が、速穂児の足を止めた。



 肩越しにみると、般若のような顔をした男が、ずかずかとあたしたちに近づいてくるのが見える。



 速穂児はあたしの体をくるりと返すと、その胸に抱き込んだ。



 ええ、なっ、なに!



「顔を出すな。若は前田瑠螺蔚の顔を知っている」



 あ、そういうこと。



「おまえ、どこへ行っていたんだ!…なんだ、その女は」



 動かない方が良いと判断して黙っていると、首の後ろに速穂の硬い手の平を感じた。



「…若。お暇を頂きに参りました」



「よく言う。俺と会わずにまたどこかへ行くつもりだったのだろう。速穂、忍の足抜けは、なにと引き替えか、わかって言っているんだろうな」



「はい」



 だめ!



 あたしは藻掻いた。大丈夫とでも言うように、速穂児はあたしの肩を一度叩いた。



「わかっているなら、戻れ。今ならまだ許してやる」



「若にも、義母上にも、わたしは返しきれない程の恩が在ります。救って頂いた命、ここで返せというのなら、返しましょう」



 だめだったら!



「…おまえ、変わったな」



 ぽつりと小さい声で、千集は言った。それはなにかに傷ついたような力ない声だった。



「おまえの命なぞ貰っても何の役にも立たん。言ってみただけだ。父上にも言われていた。おまえはいつか旅立つと。そのときは決して引き留めるなと。知っていたか、父が忍の(すべ)を教えたのは、おまえがひとりでも生き延びていけるようにだ。ただ、まぁ、少しだけ、長く居すぎたな、おまえは」



 千集の声が遠くなった。こちらに背を向けたらしかった。



「ねぇ」



 あたしの顔に速穂児の掌がまわった。喋るなと言うことのようだ。顔を覆う掌は力なく添えられている。あたしは声を出さず速穂児を見上げた。



 ねぇ、速穂児。千集、泣いているんじゃないかな。



 涙は流していないかもしれない。でも、きっと心が啼いて
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