最終話『君とともに』
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ハントはどちらかといえば小心者だ。
自身よりも何度も強い人間と戦ってきたことのあるハントだが、例えば白ひげが相手をしてくれると対峙したときは本気で小便を漏らしそうになっていた。
一度決めたことだってすぐにぶれるくらいに意志が弱い。
未だに自分の実力が客観的にどれくらいの強さなのかわかっていないほどに愚か。
考えることが苦手で、頭もあまりいいとはいえない。
こうして考えるとだめなところが多い彼だが、そんな彼にも譲れないものがある。
それもまた当然だ。
なにせハントが強くなった原動力はその譲れないものがあったからに違いない。
そして、その譲れないもののひとつが――
「シャーッハッハッハッハ!」
アーロンパークにてアーロンの高らかな笑い声が響いた。
「海軍だと……? そりゃ不運だったなぁ。しかし約束は約束……おれの目の前に一億ベリー用意できなきゃおれも村を返すわけにゃいかねぇ」
ナミが流す涙には気にも留めず、ただただ理不尽な事実を突きつける。
――ナミの笑顔。
「だがまぁ、たかが一億べリーだ。またためりゃあいいじゃねぇか! それともここから逃げ出すか? ただしその時はココヤシ村の連中は全員殺されることになるがな」
「……!」
その言葉に、ナミがなにかに気づいた。慌ててアーロンの手を離し、アーロンたちに背を向けてナミは走り出す。
「おいどうしたナミ、ついにここから逃げ出すのか? シャハハハハ――ん?」
その背中に、思ってもいないことを突きつけて、またアーロンは笑うのだが、突如現れた影に気づき首をかしげた。その影が正門を走りぬけようとしたナミを抱きしめ、受け止めたからだ。
その人物はナミを背中に手を回し、そっと耳元でささやいた。
「よく頑張った……もういい。もう、いいんだ」
「離せ! さっきの甚平の男!? 今すぐに村に向かわないと! 離せ!」
嫌悪感を露に甚平の男の腕からもがくナミに、甚平の男はやれやれとため息をついて、言う。
「俺だ、ナミ……ハントだ」
その瞬間、ナミの動きが止まった。
「……え?」
もがいていた力が一気に抜け、じっと顔を見つめる。
短い茶色の髪、黒の瞳、どこか懐かしい柔和な笑顔。
「ハン……ト?」
「ああ」
「ハント!?」
痛いほどの力で背中に回された腕に、ハントはやさしく抱き返す。
「夢……じゃない、よね?」
「現実だ」
辛かったのだろう。
――背中が震えてる。
怖かったのだろう。
――甚平がぬれる……ナミが泣いてる。
それでも歯を食いしばって戦って、気のいい仲間たちすらも裏切って。それでやっとあと一息になった
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