暁 〜小説投稿サイト〜
ワンピース〜ただ側で〜
最終話『君とともに』
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経験がほとんどない。少なくともこの8年間は一度もなかった。そして、なによりも魚人としてのプライド。魚人が人間ごときに恐れるなどあってはならないというプライドがあった。
 それゆえに反応が遅れ、今も逃げ出せずにじりじりと足を後退させることしか出来ないでいる。

「……て、てめぇ一体」

 恐怖に震えた声が響く。
 ハントは静かに、ただただ静かに獲物をにらみつける。それに、アーロンは耐えられない。

「くそっ!」

 泡を食ったように海中へと逃げこもうとする。が――

「――読んでたよ」

 見聞色の覇気がその逃走を許さない。海へと飛び込もうとしたアーロンの懐にいつの間にかいたハントが、構えた拳をその顎へと解き放つ。

「魚人空手陸式『五千枚瓦正拳』」

 放たれた拳が、大気の振動とともに顎を捉えた。肉体的衝撃と同時に大気の振動がアーロンの体内の水へと作用し激しく振動する。それがまた共鳴を果たし更なる振動を呼び起こし、そして数瞬の後――

「――っ!?」

 アーロンの体内が爆発した。 
 彼もまた他の魚人と同じく打ち上げ花火のごとく打ち上げられ、そのまま水面へと浮かぶこととなった。

「……バカ魚が」

 吐き捨てるように、ハントは言い捨て、その瞬間だった。

「アーロンパークが落ちたぁ!」

 ハントの遥か後方。そこでいっせいに喜びの声が打ち上げられた。
 見聞色の覇気で人がたくさんいることはわかっていたハントだったが、実質自分に危害を加えない存在としてほとんど思考に入れていなかったため、その声の大音量にびくりと小さく背筋をふるわせた。

 ――びびった。

 慌てて振り返った先ではココヤシ村のみんながナミをもみくちゃにしながら大喜びしている。ベルメールも、ゲンゾウもノジコも、ドクターも、ハントがお世話になったみんなが、まるで子供のようにはしゃいでいるのだ。
 それを見ていたハントも、なんとなく感じることの出来なかった実感がじわじわと自身に染み渡っていくのがわかった。

「んー、終わったなぁ」

 未だにそびえたつアーロンパークを見上げてそっと呟く。
 誰もがまだこの瞬間を夢のようにすら感じている。 

 ――が。

「そこまでだ貴様らぁ! チッチッチッチッチ!」

 それに水を差す一団。

「なんというラッキーデイ。いやご苦労戦いの一部始終を見せてもらった。まぐれとはいえ貴様のような無名の男に魚人どもが負けようとは思わなかった。だがおかげでアーロンに渡すはずだった金も――」

 ――やはり海軍。

 ハントがまた怒りにその拳がぷるぷると震える。
 だめだ、やってはいけない。
 その自制が徐々に削られていく。

「――武器を捨てろ! 貴様の手柄
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