暁 〜小説投稿サイト〜
 
 
[1/3]

[8]前話 [1] 最後
「いってきまーす!」



 日紅(ひべに)の元気な声が聞こえる。



「昨日やってた宿題持ったの?」



「もったー!」



 日紅は後ろを振り返りつつ答えている。



 その笑顔は明るい。太陽のように、きらきらと輝いたままだ。



 家を出るのが、少し遅くなってしまったようだ。日紅は少し早足で歩く。



「ヒベニ」



 いつもの道。光を反射して眩しい屋根。心地よく冷えた空気。



 日紅はスキップでもしそうな勢いで、真っすぐ続く白く塗装された道を歩く。



「ヒベニ」



 ふいに明るい朝には相応しくない、全身黒づくめの着物を着た男が道の端に現れた。けれど、日紅は彼の姿も、かけられた声も、まるで気がつかぬように、急ぎ足でせわしなくその横を通り過ぎる。



 そして男など一瞥(いちべつ)もせずに、そのまま去ってゆく。



 男はじっとその後ろ姿を見ていた。その間通りかかったサラリーマンや学生が、ぎょっとしたように男を凝視するのをまるで気にもかけず。



 日紅が見えなくなってから、男はゆっくりとヒトに見えぬよう姿を消した。



 わかってはいた。



 もう、日紅が男を見ることはない。ウロと、その名を呼ぶこともない。虚だけではなく、日紅の瞳は二度と(あやかし)を映す事はない。当然、声も聞こえるはずなどないのに。



 日紅は、奇妙なヒトだった。本当に。妖と関わるヒト。日紅と同じヒトを喰らうと知っても、日紅は虚を優しいと言った。



 足の横を小さな妖がころころと転がってゆく。右を見ればいいところに来たと、日紅の家の隣にある大木がざわめいた。



 最近、ここ一帯にいる妖が言うことはひとつだ。



「…なんだ」



 用件は分かっていたが、虚はあえて尋ねた。



「花を」



 やはり内容は一つだ。



大樹(たいじゅ)お主は動けただろう。なぜわたしに頼む」



「もう動けぬ」



 大樹はそっけなく言った。そうかと虚は頷く。命の終わりは誰にでも来る。そう、誰にでも。



「どの花だ」



「ワシの花を」



「命を縮めるぞ」



「構わんよ。勿体ぶる程のものでもない」



 はらりと虚の足元に薄桃色の花が落ちてきた。



「嬢ちゃんの優しい色だ。青更(せいふ)にこれ以上な花はあるまい」



「では預かる」



 虚はそれを拾った。懐にしまう。



「ワシはな、黒いの。昔、嬢ちゃんと青更に会いに行ったことがあっ
[8]前話 [1] 最後


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ