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。本来交わってはいけないものだ。いくら心を添わせても一緒に生きていくことはできない。
「おい、食人鬼。次は俺の番だどいてくれ」
ぬっと人型の細長いものが横から顔を出した。虚は横にずれた。妖は握っていた蒲公英をそっと添えると両手を合わせた。
「…なんだそれは。何をしている」
「食人鬼、知らぬのか。ヒトはこうして手を合わせる。いなくなった者の幸せを願うのだ」
「願うだけか。無意味だな」
「ヒトは意味のないことが好きなんだろう」
がくんがくんと妖は首を振った。頷いているつもりらしい。人型に慣れてはいないようだ。
「そういえば、食人鬼、おまえなぜあのヒトの子を食べぬのだ。おまえの印が付いているぞ。食べぬなら印を消してくれ。旨そうだ」
「ヒベニはわたしのものだ」
「ならなぜ喰わない。遊ぶにしても長すぎじゃないか」
「ヒベニが寿命で死ぬときに喰う。そう約束した」
「なに」
妖は虚をみた。
「寿命とは、気の長い話だ」
「お主は短気だからな。ヒトの寿命など、あっという間だ。その間ぐらい生かしてやってもいいだろう」
「俺より気の短い奴が何を言う。印はひとつしかつけられないのに…おまえ、そうやってあの娘を守っているのか」
風が吹いた。虚は答えない。さわさわと花が揺れる。雲間から光が差す。花弁はなおも降り積もる。
「梢」
「三郎」
「宵闇」
「尊人」
「水流」
様々な妖が口々に『彼』の名を呼んでいく。いろいろな花が折り重なる。けれど答える声はない。
『彼』の望む名を呼ぶものはもう、いないから。
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