巫哉
巫哉
[1/8]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
とろりと優しい光に包まれた満月が、夜空に浮かんでいる。
夜の冷えた空気が日紅の上記した頬を包んで心地が良かった。
「巫哉!」
『彼』は相も変わらず、古ぼけた公園の、木の根元にいた。丁度月光が煌めき『彼』の姿を凛と浮かび上がらせる。遠くからでもその姿がよく見えて、日紅は駆け寄った。
「ぶ!?」
その勢いで『彼』に飛びつこうとした日紅はびたん、と何かにぶつかった。
「にゃにこれ…」
「てめぇはそのやたら飛びつく癖どーにかしろ」
『彼』のあきれ顔が目の前に見える。見えるのだが、日紅の身体は何か透明な板のようなものに遮られて『彼』に近づくことができない。日紅は空中に張り付いている自らの身体を引き剥がした。『彼』から見た日紅はさぞや面白い顔をしていたに違いない。
「ぷほっ!なによー巫哉にしかしてないからいいじゃない!なによこれ、この、見えない…板!?こんなのに妖の力使うなんて卑怯なんだからね!」
「俺にしかしてないことの何がいいのかわからねぇし、卑怯でもねぇ。俺に飛びつこうとするてめぇが悪い」
「わるくなーい!だって久しぶりだし…てゆーかあたしにそんな口きいていのかな〜巫哉くん!」
「なんだ」
日紅はにやりと笑った。
「ふっふっふっふー…」
「何だよ」
「あたし、ちゃーんと思いだしたよ!巫哉の本名」
『彼』は瞠目した。それを見た日紅はしてやったりと笑う。
きっと『彼』は、日紅が本当に真名を思い出す事などできるわけないと思って、こんな無理難題を吹っ掛けたに違いない。幼いころに一度教えてもらったきりの名前だ。普通なら、絶対に思い出せないものだ。それを偶然夢で見たなどと随分虫のいい話ではあるが。
「…またあいつか」
「ウロ?ぶっぶーウロに教えてもらおうとしたけど、知らないって教えてくれなかったよ。自力ですー」
「教えてくれないも何も、あいつが俺の名を知るわけねぇからな。ただ、あいつはおまえの中にもともとある記憶を、引きずり出す事はできるんだよ」
「あ、そしたらやっぱり夢に見たのってウロのおかげなの?流石に都合良すぎかなーって思ってたんだけど」
「序でにこの前てめぇをここまで運んだのもあいつだ」
日紅が熱のある体で『彼』を探して朦朧と彷徨い、虚に初めて会った時のことを言っているのだ。
「そうなんだ…。やっぱり、ウロ優しい。今度ちゃんとお礼言わなきゃ」
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ