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巫哉
巫哉
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なるなんて、考えたこともなかった、のに。



「日紅、俺にはもう、おまえを抱きしめ返す腕もない」



 ぽつりと『彼』が零す。



「あたしが、巫哉の分も離さないでいてあげるから!消えないでよ…お願い…」



 『彼』は抱きしめる代わりに日紅のつむじにそっと頬を寄せた。



 愛おしい。



 日紅に伝えることはない。けれど、それは心からの真実だった。



 日紅と離れている間、沢山のことを考えた。もしも、『彼』が日紅と同じヒトであったなら。日紅と逢い、結婚し、子供ができて家族になる。いずれ老い、眠るように死を受け入れる。その側には日紅が、子が、孫たちがいるのだ。幸せだ。それはこれ以上望むべくもない、幸せだ。



 『彼』が生きてきたのは、長い長い時間だった。産まれた意味を何度も考えた。終わりある命を持つものは、子孫を残すために産まれ死んでゆく。自らの家族に包まれて生きるのは、どんなにか幸せだろう。脈絡と続く命。死ねば輪廻の輪にのり、再び世に産まれ落ちる。産まれ、死に、また生まれ、死ぬ。命は尽きず廻る。



 では、死なない命は、どうしたらいいのだ。



 家族の温かみも知らず、自分と同じような生き物もいない。『彼』は常に独りだったし、それを疑問に思うこともなかった。今までは。



 だが、やっと知ったのだ。『彼』が産まれたその意味を。日紅は『彼』を『巫哉』と呼ぶ。優しく暖かい声で。『彼』は(つい)に名を得た。『彼』だけの名を。



 終わりはすぐ傍まできていた。そこがどこなのか、自分がどうなるのかは『彼』にすらわからない。消えるとはどういうことだろう。肉体が消えたら、『彼』のこの気持ちはどうなるのだろう。一緒に消えてしまうのか。それはきっと誰にもわからないこと。



 日紅の泣き声すらもう聞こえない。けれど絶対に泣いているとわかる。泣くな。



 『彼』は酷いことをした。日紅に自らの命を終わらせた。



 けれど、『彼』は幸せだった。産まれてから一番幸せであった。



 もしかしたら、ずっと『彼』は死にたがっていたのかもしれない。死ねない『彼』の命を、終わらせてくれるモノが現れるのを、ずっと待ち望んでいたのかもしれない。それが日紅で、良かった。本当に、よかった。日紅に逢えて、よかった。



 だから俺は、ちゃんと俺として、おまえの幸せを願って、いるから…。



「巫哉!」



 どこだ、日紅。どこにいる。



 目も見えない。耳も聞こえない。感覚もない。



 ちゃんといるか?俺のそばに。俺が幸せだったと、お前と廻り逢えて本当に幸せだったと、伝わっ
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