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巫哉
巫哉
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「ああ、こうなるのか」



 落ちついた『彼』の目線を追って日紅は息がとまった。日紅の頬に触れていた指先が、消えていた。空気にとけるように、静かにゆるゆると『彼』は消えていた。



「巫哉!」



 日紅は掠れ声で叫んだ。夢ならいい、これが。日紅は願った。だってついさっきまで、いつものように笑い合っていたのだ。



 日紅に真名を思い出させたのは、こうするため?真名を思い出したら『彼』が帰ってきてくれると、日紅は必死で考えていたのに。



 あの時は既に決めていたのか。ならば一体いつから『彼』はこうすることを決めていたのだろう。



 姿を消す前、日紅の部屋で『彼』が見せた涙。あれはやはり、見間違いなどではなかったのか。



 もっと、『彼』の心に寄り添ってあげればよかった。『彼』の話を沢山聞いてあげればよかった。あの『彼』が涙したのだ。それほどの理由があったのだ。バカだった。途方もなく、愚かだった。こんなことになるまで気がつかないなんて、救いようがない。



 時間が戻れば、といくら願っても、そんなことは起ころう筈もなかった。日紅はただ激しく後悔した。



 『彼』はそんな日紅をじっと見つめていた。



「どうしたら止まるの、巫哉!」



 日紅の溢れる涙を、『彼』は消える指先で優しくなぞった。



「止まらない」



「止まらないわけない!どう、どうすればいいの、あたしは!」



「俺のそばにいてくれ」



 日紅はしゃくりあげた。



「いる、いるから…いるから、消えないで巫哉…」



「俺が、消えるまで、側にいて」



「…ばかぁあっ!」



 日紅は泣きながら蹲った。もう立っていられなかった。



 『彼』も、日紅と一緒にしゃがみこむ。



「犀がいるだろ」



「犀!?犀と巫哉は、違うでしょ!犀も巫哉もいなきゃ、だめなの!巫哉!」



「日紅…」



 『彼』の優しい声。それは日紅がからかい半分でずっと『彼』に求めていたこと。笑顔も、優しさも。でもこんなの、全然嬉しくない!



 なにもいらない、何も望まない。だから、いかないで、巫哉!



 お願い、神様、巫哉を連れて行かないで…。



 日紅は『彼』に飛びついた。ぎゅっと力を入れて抱きしめる。どこにも行かないように。



 日紅が大人になって、おばぁちゃんになって、布団の中でしわくちゃな顔で笑う。その側には絶対にむすっとした表情の『彼』がいてくれる。そう信じていた。



 日紅より先に『彼』がいなく
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