巫哉
巫哉
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びた鼻梁に、引き結ばれているかたちのよい唇。肌は白磁、瞳は宝石、なんともまぁ、女泣かせの男がいたものだ。『彼』が人間でなくて本当に良かったと日紅は独りごちた。昔日紅が犀から教わった「傾国の美姫」というのは、こう言う容貌の人を言うのだろう。それは戦争も起こる。
「巫哉人間じゃなくてよかったねぇ」
『彼』は息を呑んだ。日紅はそれに気づかずへらりと笑う。
「……………何故」
「だって、悔しいけど!巫哉ありえないぐらい美人だもん。人間だったらきっととりあいだよ!絶対大変なことになってたよ」
「じゃあおまえも、妖じゃなくてよかったな。おまえみたいなのは、すぐに悪い奴に騙されて喰われて終わりだ」
言い終ってから、『彼』はまた笑った。
日紅は首を傾げた。あの仏頂面な『彼』が、今日はよく笑う…。
「巫哉今日ご機嫌だねぇ?」
「そうかもな」
日紅は『彼』が肯定したことにも驚いた。いつもなら絶対にそんなことは言わないのに。
「巫哉熱あるの?なんか素直…」
「ねぇよ」
日紅が伸ばした手は、『彼』に触れることなくぺたりと壁に遮られる。
「ねぇ帰ろ?ここ寒いよ」
「おまえ、ここがどこか憶えてるか」
『彼』は日紅から顔を逸らした。どうやらまだ帰る気はないらしい。
「巫哉を初めて見つけたとこでしょ」
日紅は自分の言葉が無視されたことに少しむくれて答える。
「酷かったよ、あの時のおまえ。視たんならわかるよな?」
「…返す言葉もございません」
幼い日紅は『彼』の鼻を掴み、腹に頭突きをし、唇を引っ張り、耳を捻る…やりたい放題だった。
「しつこく俺にじゃれつくし、突拍子もないことをいきなり言いだすし」
「う、ご、ごめん…でも子供の頃の話を持ち出すのはずるいと思う!今はもうそんなことしないし!」
「どうだかな」
フンと鼻を鳴らして『彼』は笑った。
「そうやってばかにして〜!」
「してねぇよ」
「してる!」
「してない」
『彼』は静かな声で言った。そこには揄いも嘲りも含まれていなかった。
すっと月の光が陰った。雲が射したようだ。夜の公園は、月の光がなければただの闇。街灯の光も奥の二人を照らす事はない。
「だから俺は、ヒトの成長が早いってことを、忘れていた。ずっと」
「巫哉、
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