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ラ=ボエーム
第一幕その四
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「そう、これは我々からのおごりです」
「家賃とは関係ありませんので。どうぞ」
「すいませんね」
 大家は疑うことなくそのワインを受け取った。そしてマルチェッロからコップを受け取った。
「乾杯」
「乾杯」
 乾杯の後でまずは注がれたワインを飲む。
「では一息ついたところで」
「もう一杯」
「これはどうも」
 すかさずショナールが勧めそれに乗る。
「すいませんね、気を使って頂いて」
「いえいえ、大家さんは我々の大事なパトロンですから」
「偉大な芸術の保護者です。無下に扱ったりはできません」
「えへへ、そりゃどうも」
 見え見えのお世辞であるが悪い気はしなかった。
「さぞかしもてるでしょうな」
「滅相もない」
 マルチェッロの言葉に謙遜してみせる。
「もてるだなんて。そんな」
「いえいえ、昨夜見ましたよ」
「えっ!?」
「マビュで。貴婦人を御相手に」
 当時シャンゼリゼ通りにあった舞踏場である。華やかな場所として知られていた。
「御見事なステップで」
「いや、あの時はね」
 マルチェッロは冗談のつもりだったがどうやら本当だったらしい。彼はえへへと笑って頭をかいていた。
「ほんの余興で」
「貴婦人の方に対してもひけをとらない男伊達っぷりでしたな」
「すみにおけませんなあ」
 ショナールが感心したように言う。
「流石は我等の保護者だ」
「ではもう一杯」
「はい」
 またショナールが勧めたワインを口に含む。
「では今宵もですな」
「いや、今宵は」
「いやいや、是非行かれるといいです」
「今宵は。そんな」
「今夜はクリスマスですぞ」
「それでは奥方と?」
「それもねえ」
 コルリーネの言葉には弱い苦笑いになった。酒でほんのりと赤くなった顔が笑ったように見えた。
「普段通りというのは」
「それでは?」
「いえ、私もね」
 ロドルフォの言葉に乗る形となっていた。
「若い時臆病だったのを埋め合わせしている時期でして。若い女性を相手に」
「熟練の手練を」
「心憎いことで」
「痩せた可愛い女の子に」
「いえ、痩せたのは駄目です」
 それは断りを入れてきた。
「何故ですか?」
「それはですね」
「まま、どうぞ」
 そしてまたショナールが酒を勧める。
「お話下さい」
「痩せた女は厄介なものなのですよ」
 彼は首を捻った後でこう述べた。

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