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剣の丘に花は咲く 
第六章 贖罪の炎赤石
第七話 贖罪
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するまで随分と時間がかかったものじゃ……」

 オスマン氏は懐かしそうに目を細める。

「……今でも良く覚えておるよ。何が切っ掛けかわからんのじゃが、ある日突然彼は教師になることを了承したのじゃ。ずっと教師になることを渋っていた彼が、教師にしてくれと頼みにきたのじゃ」
「……何でですか?」

 ポツリと呟いたのは、アニエスではなかった。
 キュルケでも、ロングビルでも、銃士隊の誰でもなく……。

「コルベール先生は……何で……教師に……」

 ごくごく平凡な、一人の女生徒だった。

「……何で……」

 少女は座り込む女生徒の中から立ち上がり、震えながら繰り返しオスマン氏に問いかけていた。
 特筆するようなところは何もない。知り合いでもなければ、背景の中の一人として埋没するような少女が、食堂中の視線にさらされながらも立ち上がり、オスマン氏を見つめている。

「……君たちは知っているはずじゃよ……ほら、彼が良く言っているじゃろう」

 自分がとんでもないことをしているとわかっているのか、可哀想なまでに震えながらも、座り込むことなく立ち続ける少女に、オスマン氏は、眩しいものでも見るかのように目を細める。

「『炎が司るものが』――」
「「「「「「「「「「『破壊だけでは寂しい』」」」」」」」」」」
「なっ!?」

 オスマン氏の言葉に続けるように、最後の言葉が唱和された。
 一つ一つの声は決して大きくはない。
 精々独り言で済ませられるだけの声だ。
 しかし、それが食堂中の生徒たち全員の声によって同時に呟かれた時、大きな一つの声となった。
 驚きを示すのはアニエスと、銃士隊の面々だけ。
 まるで事前に打ち合わせしていたように見えるほど綺麗に唱和に、オスマン氏は驚きを示さず、ただ口元に淡い微笑を浮かべるだけだった。

「……彼はの、火の系統の生徒たちが、何時か自分のようになってしまった時、それでも生きていけるようにするために、火が司るものに何かを加えたかったのじゃ」

 つうっと、オスマン氏の頬を一筋の涙が流れた。

「全ては子供たち……君たちの未来のために……」






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