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ラ=ボエーム
第三幕その五
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「このうぬぼれ」
 マルチェッロ達はその後ろで本格的に罵り合いはじめた。
「大体いつも御前は」
「何なのよ」
「馬鹿騒ぎばかりして他の男にも馴れ馴れしいし」
「それが私の流儀よ」
「何が流儀だ、この浮気女」
「浮気はされる方が悪いのよ」
「じゃあ僕が悪いっていうのか」
「そうよ」
 売り言葉に買い言葉だ。ムゼッタはキッとした顔で言い返す。
「悔しかったらあんたも浮気してみたら?」
「こいつ!」
「よせって」
「こんなところで騒いでも」
「ええい、止めてくれるな」
 ショナールとコルリーネの制止を振り切ろうとする。
「ここで退いたら」
「男が下がるとでも言うつもりかしら?」
「ムゼッタも止めろよ」
「全く。いつもいつもこんな喧嘩ばかりして」
「それも今日で終わりだ」
「どういうこと!?」
「別れてやる、もう」
「言ったわね」
 ムゼッタも完全に頭に血が上っていた。
「今の言葉、わかってるわね」
「勿論だ」
 そしてマルチェッロも。こうなってはもうどうしようもなかった。
「別れてやるよ」
「ええ、こっちこそ願い下げよ」
「って二人共何言ってるんだ」
「落ち着けよ」
「僕は冷静だ」
 これがそうではないのは誰でもわかることだった。わかっていないのはマルチェッロとムゼッタだけだった。完全に周りも後先も見えなくなっていた。
「冷静にこう言ってるんだ」
「私もよ」
「何を馬鹿な」
「いい加減にするんだ」
「だから別れるって言ってるんだ。もう顔も見たくないよ」
「それは私の台詞よ」
「あっ、言ったな」
 言い返すと向こうも。
「ええ言ったわよ。何ならまた言いましょうか?」
「その必要はないね。もう顔に書いてあるから」
「あんたの顔にもね」
「このあばずれ」
「この甲斐性なし」
 完全に壊れてしまっていた。
「これはもうどうしようもない」
「お手上げだな」
「あっちはもう」
 ショナールはロドルフォとミミを見た。
「入る必要はないけれど」
「僕達が言えることじゃない」
「そうだな」
「それじゃあ春に」
「うん」
 ロドルフォはミミの言葉に頷いた。
「別れましょう」
「花の季節に」
「冬の間はずっと一緒にいて」
「最初の花が咲いたら別れよう」
「それまでは二人でいましょう」
「いいんだね、それで」
「もう決めたから」
 ミミは答えた。
「それを思い出にして生きていくわ」
「わかったよ。それじゃあ」
「けれど」
 そしてミミは一瞬悲しい顔になった。それまで無理に作っていた笑みが消えていた。
「私思うの。冬がずっと続けばいいって」
「僕と一緒にいられるからかい?」
「ええ」
 彼女は答えた。
「ずっと。だったらいいのに」
「ミミ
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