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巫哉

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は高く上り、空を飛べもしないヒトは地に足をつけて立ち、陽を見上げてはその(まばゆ)さに目を(すが)める。



 やはり、ヒトと長くいすぎたのだ、と『彼』は思う。



 ヒトは、生きている。生きるために他の命を殺して生きる。



 生きて行くということはそういうことだ。ひとつの命を生かすために千も万も億も他の命が失われている。それは単なる弱肉強食。ヒトすら死ねば他のものが生きて行く上での糧になる。



 『彼』は、ひとつの命を大切に想ってしまった。例え他の命がいくつ犠牲になろうとも、たったひとつ、その命だけが愛おしい。



 それを願うのは、ヒトと同じだ。ヒトは無力だからいい。願いは手が届かないから美しい。ただ『彼』は違う。願ったことを、現実にする力を持っている。それは、「いけないこと」だ。



 「悪いこと」をしてはいけないのだ。



 日紅に、怒られてしまうから。



 腹も減らず、眠ることもなく、息もしない『彼』は、日紅に会って、ヒトの真似をするようになった。最初は日紅に強制されて、逆らうのが面倒くさかったから。そして、それは段々―…日紅と同じヒトではないことで怯えさせて嫌われたくないという思いに変わっていった。



 地に足をつけて、歩くということ。足の裏に力を入れ、土を踏む。いのちの芽吹きを感じながら、ぐっと体重をかけ、前に進む。歩いた分だけ、自らの軌跡が後ろにはるか長く長く棚引く。



 表情。笑うと言うこと。楽しいという感情を他者に伝えるために顔に浮かべる。笑顔を浮かべてみせると、日紅が笑うから。笑顔は嬉しいのだと日紅は言う。楽しいときは笑ってと、そう言う。だから『彼』は笑う。日紅のために。



 息をするということ。体の中に地や光の暖かさを吸い込む。それは『彼』のなかをぐるりとめぐり、いのちの息吹(いぶき)をしみこませる。それを吸って、吐いて、自らも命の輪廻に宿る。身体を血が巡り、温かみが通う。ヒトのように。



 けれど、いくら真似をして近づいても、『彼』はヒトじゃない。日紅とは違う。日紅もいくら妖と関わったところで、日紅が妖になるわけじゃない。日紅はヒトのまま、『彼』は妖のまま、そこには絶対の隔たりがある。



 もし、などと考えることは愚かなことだ。いくら考えても現実に起こりはしないのだから。けれど、今だけは。



 ひとつひとつ、日紅に近づいていって。



 ひとつひとつ、何かを得ていく。



 得たその分、持っていた何かを失って。



 また、俺は手に入れる。




















押さえきれぬ感情は滔(
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