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西域の笛
第五章
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「はい、そうです」
 無論玄奘達の為でもあった。
「そうして頂いたのです」
「まさかあの方がここにおられるとは」
「まさに夢です」
「夢ではありません」
 玄奘はこのことを否定した。
「見たものです。しかし」
「しかしですね」
「このことはそのまま伝えられないでしょう、幻の様に思われるでしょう」
「そうなるのですか」
「幻だと」
「はい、そうなります」
 これは達観している言葉だった。
「あの方は伝説の方ですから」
「私達が話をしてもですね」
「それでも」
「そうです。しかし私はあの方に助けて頂きました」
 遠い、そして素晴らしいものを見ていた。そのうえで。
 玄奘はこのうえなく清らかな声で従者達に告げた。
「では今から」
「水に食べるものを手に入れてですね」
「そのうえで」
「戻りましょう、経典を持って」
 そして仏の教えを唐に伝えようというのだ。玄奘は老子に感謝しつつ唐への帰り道に向かうのだった。
 玄奘が老子に会ったことは従者達が広めたが玄奘の言う通りそれはそのまま伝わらなかった、だがその話は残り西遊記という書になった。
 そこでは三蔵法師、玄奘の弟子達が活躍し老子も出て来る。西域に出た老子は仙人になったと言われている、だがその確かなことは誰も知らず伝説になったままである。確かなことは。


西域の笛   完


                2013・1・28
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