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西域の笛
第三章

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「この辺りに。その時代の笛が残っているとは」
「そうですね、一体何なのか」
「妖かしでしょうか」
「それでしょうか」
「まさか」
「案ずることはない」
 だがここで、だった。いぶかしむ一行に声が聞こえてきた。
 声と共に笛が止まった、それこそはだった。
「笛の主ですね」
「そうですね、笛が止まりましたし」
「間違いないですね」
「それで」
「はい、そうです」
 その通りだと言う玄奘だった。
「この声は」
「そうだ」
 また声がした、その声を聞いてまた言う玄奘だった。
「老人の声ですね」
「この砂漠の中で、ですか」
「老人の声とは」
「妖怪では、やはり」
「その類では」
「違うとだけ言っておこう」
 こう言った声だった。
「私は御主等の敵ではない」
「では誰ですか」
「貴方は」
「今は名乗らない。だが御主達は諦めてはならない」
 こう一行に言うのである。
「決してな」
「しかし今はです」
「もう食べるものがありません」
「水もありません」
 玄奘の従者達は言う。
「ですからこのままでは」
「我々は」
「笛の聴こえる方に来るのだ」
 これが老人の声の言うことだ。
「そうすればだ」
「助かる、ですか」
「我々は」
「そうだ、玄奘よ」
 今度は玄奘に言って来た。
「御主は天竺に向かっているな」
「そのことをご存知でしたか」
「そうだ、見ている」
 そうしてだというのだ。
「天竺に向かい」
「そしてですね」
「経典を手に入れるのだ」
 このことも言う声だった。
「そして唐に戻れ、それが御主のしなければならないことだ」
「そのことを承知のうえで」
「わしは御主達を助ける」
 声は言う。
「そうする、ではだ」
「笛の聴こえる方にですね」
「来るのだ、いいな」
「わかりました」
 こうしてだった、玄奘と従者達は笛の聴こえる方に向かった、そして。
 やがて砂漠の中に大きな池があった、その周りには果物がたわわに実っている木々もある、その池を見てだった。
 従者達は目を輝かせて玄奘に言った。
「玄奘様、泉です」
「水があります」
「そして食べるものもです」
 こう玄奘に言うのだった。
「我々は助かりました」
「これで」
「はい、そうですね」 
 玄奘もその彼等の言葉に頷く。
「では今から」
「飲みましょう」
「そして食べましょう」
 彼等はすぐに泉に向かった、そのうえで頭を池に入れてがぶがぶと飲む。玄奘も穏やかに瓢箪に水を入れている。
 次に果物も食べる、そうしてからだった。
 従者達は周囲を見回して言うのだった。
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