第四章
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「陸軍大将ともあろう方がこの様な粗食を」
「いや、だから白米はな」
「贅沢と仰いますか」
「今白い飯を食える者がどれだけいるのか」
乃木はこのことから言うのだった。
「そうはいないと思うが」
「確かに。それは」
この人もこのことは知っていた。村ではまだまだ貧しい、地域によっては白い飯なぞ軍にでも入らなければ食えるものではない。
軍にしてみても白い飯はご馳走を食わせるということでもあるのだ、それで乃木も今言うのである。
「贅沢だが。周りがどうしてもというのでな」
「では将軍は一体普段は何を」
「稗を入れた飯だが」
普段はそれを食しているというのだ。
「それが村では普通だからな」
「しかし陸軍大将ともあろう方が」
「武人が贅沢をするものではない」
乃木は己の考えを今言った。
「だからだ。わしはこれでいい」
「その梅だけの弁当で」
「これでも贅沢だからな」
こう言うのだった、乃木は食事についても武人だった。
乃木は後に学習院に入りそのうえで後に昭和天皇となられる裕仁親王の教育役となった、その時乃木は親王にこう尋ねたことがあった。
「殿下はいつもどの様に通学されていますか」
「晴れの日は供の者を連れて、雨の日は馬車で通学しています」
殿下は正直に答えられた。
「そうして通学しています」
「そうですか、それはいけません」
乃木はその殿下にすぐに答えた。
「それでは下々の者に示しがつきません」
「そうなのですか」
「はい、ですから」
それでだというのだ。
「これからは晴れの日も雨の日もお一人で通学されて下さい」
「わかりました」
殿下は素直に答えられた、そしてだった。
殿下は実際にお一人で通学される様になった、乃木はその他にも殿下に対して様々なことを教え伝えた。
このことがあってから後になっても、即位されてからも昭和帝はこう仰っていた。
「あの方は院長と呼んではならない」
「では何と呼べばいいのでしょうか」
「院長閣下と呼ばなくてはならない」
陛下ご自身のお言葉である。
「そう呼ぶのだ。いいな」
「閣下ですか」
「そう呼んで当然の方だな」
そもそも陸軍大将であり学習院の院長だ、爵位もある。それで閣下と呼ばない理由もなかった。
だがそれ以上の敬意を込めて昭和帝は周囲に言われたのだ。
「是非あの方については閣下と呼んでくれ」
「畏まりました」
回りも帝のそのお言葉に頷いた。賢帝であり人を見る目を持っておられた昭和帝のお言葉である。
乃木稀典が無能な軍人であるならば昭和帝もこの様にされない、そもそも山縣も重く用いたりはせず児玉も友人として接しなかった。このことが何よりの証ではないだろうか。
あの戦争の後所謂具国主義を忌み嫌う風潮により乃木
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