第四章
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「間違いないね」
「うん、彼だよ」
「モーツァルトだね」
「間違いない、彼がいるよ」
「舞台にね」
見ればモーツァルトはベームと一緒ににこにことしていた、観客やオーケストラの面々に手を振ってさえいる。
大抵の人間は彼に気付いていない、だが気付いていると思われる面々は僅かにいて彼等はモーツァルトに対しても言った。
「ブラボーーー!」
「最高だったよ!」
モーツァルトは喋らない、だが。
彼はその彼等にも笑顔で手を振る、そしてだった。
ベームに顔を向ける、ベームも彼に顔をやって。
そのうえで二人で笑顔を浮かべ合う、それは名舞台を創り上げた者同士だこえが浮かべ合う会心の笑顔だった。
ベームはそのモーツァルトを横にオーケストラの面々に両手を下から上に振る、そのうえで彼等を立たせて挨拶をした。
モーツァルトは彼等にも手を振る、また舞台に来た歌手達にも笑顔を向けていた。
彼等はそのモーツァルトの姿を最後まで観た、そのうえで舞台の後の夕食の場でベームに対して興奮した口調で言った。
「確かにいました」
「モーツァルトが舞台にいました」
「そして笑顔で皆に手を振っていました」
「本当にいました」
「うん、そうなんだよ」
ベームは見事な舞台を終えて満足しきっている顔でシェフが腕によりをかけた美食を美酒と共に味わいながら彼等に答える。
「モーツァルトは生きているんだよ」
「そうですね。間違いなく」
「今も生きているんですね」
「そして舞台にいて皆を見ている」
「その音楽も」
「彼は特別なんだよ」
ベームはワインも楽しみながら言う。
「音楽が生きているだけじゃない」
「彼自身も今もいる」
「そうなんですね」
「そうだよ、モーツァルト以外かも知れないけれど」
だがモーツァルトは間違いなくだというのだ。
「今もいるんだよ」
「舞台にですね」
「彼の音楽が演奏される場所に」
「何処にでも出て来るんじゃないかな」
モーツァルト自身の音楽が演奏される場所なら何処でもだというのだ。
「私は舞台で会っているけれどね」
「ピアノが演奏される場所でもですね」
「そうした場合でも」
「そうかも知れないね。けれど彼はいるんだ」
ベームはまたこのことを言った。
「そしてそのうえで自分の音楽が演奏されて楽しまれていることを誰よりも嬉しく思っているんだよ」
「では我々はこれからもですね」
「彼の音楽を」
「共に楽しむんだよ」
これがベームの持論だった、モーツァルトの音楽に対する。
「モーツァルトの音楽をね」
「ええ、じゃあそうさせてもらいます」
「これからも」
彼等も舞台の後の美食と美酒を楽しみながらベームに応える、その時だった。
レストランの中でピアノの演奏がはじまった
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