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自由君
自由君
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いったんだよ。そんだけさ」とどうでもいいことのように言った。
私は、彼を殴っていた。
理性が働く前に行動してしまうことは私にとって初めてだった。
私は、彼が殴られた頬をおさえて痛がっているのを見て、急に恐ろしくなって彼の家を飛び出し、逃げるようにして自分の家に帰った。私は彼を殴ってしまってから一度も人を殴ったことはない。
殴らないように自分を戒めている。
それから二日後、彼は転校することになった。
担任は、家の都合でだと言っていたが、私は今でも私が彼に行った行為が原因で親に彼が頼んだのではないかと思っている。
私はとんでもない事をしてしまったと思った。
かっとなったことを悔いてあやまればよかったと思った。
月日が流れて中学三年生になり私は、始業式の五日後、彼女に告白した。
彼女は、私をじっと見た後、「ごめんなさい」とつぶやき、私の横を通り過ぎて立ち去ろうとした。
私は、「飯田・・・自由君のことが今でも好きですか。」と走り去ろうとしている浜岡に叫んだ。
浜岡は、振り返った。
二人の間に沈黙が流れた。
やがて沈黙を破って浜岡は答えた。
「はい」と。
私は今でも飯田の家で彼女に何かしたのか言うべきだったのか悩む。
中学校を卒業して二十年たつが、ときどき飯田の家があった場所にいくことがある。
飯田の家は無くなった。
飯田の家があった土地は、私が高校生のころに洋服屋になり、洋服屋がつぶれて、私が二十五歳のころには酒屋になっていた。
酒屋がつぶれて今は空き地になっている。
これからこの土地は何に使われるのだろうと空想に思いを馳せた。
風か吹いて、私の目の前を木の葉が横切った。

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