第一幕その九
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ないわ。あの人に会えるのは今日が最後。こればかりはどうしようもないのよ」
ここでまた扉を叩く音がした。
「今日はお客様が多いわね」
ズデンカはそれを聞いてそう思った。だがすぐにこう思い直した。
「けれどそれもそうね。懺悔の火曜日なんですから」
特別な日である。それならば納得がいく。彼女は自分にそう言い聞かせながら扉を開けた。
「君なの」
そこにいたのはマッテオだった。
「うん」
彼は深刻な顔で頷いた。
「気になることがあってね。また来たんだ」
「気になること?」
「そうなんだ。手紙のことで」
「ああ、それのこと」
ズデンカはそれを聞いて哀しい顔をせずにはいられなかった。
「?どうしたんだい」
マッテオもそれに気付いた。声をかける。
「あ、何でもないよ」
彼は慌てて自分の気持ちを隠した。だが心の中では違っていた。
「そうか、ならいいのだけれど」
だが若く純真なマッテオはそれには気付かない。友と思っている若者の顔が戻ったのを見て安心した。
「もう書いてくれたかな、彼女は」
「返事を?」
「うん。その結果次第で決めるからね。転勤するかどうか」
「そうなの」
今度は哀しい顔を出すわけにはいかなかった。
「それは少し待って。僕が絶対に持って来るから。今姉さんはその手紙を書いている最中なんだ」
「そうだったのか。じゃあ君に頼むよ」
「任せてよ」
彼、いや彼女はそれに対して無理して明るい顔を作って応えた。
「このホテルか舞踏会で渡すから。それまで待っていてね」
「頼むよ」
「うん、わかったよ。それじゃあ今は悪いけれど帰ってね。姉さんに見つかると厄介だから」
「わかったよ。じゃあね」
「ええ」
マッテオはこれで帰った。入れ替わりにアラベラの部屋の扉が開いた。
「準備はできた?」
「ええ」
見ればアラベラは見事な絹の純白のドレスに身を包んでいた。まるでプリンセスの様である。
「貴女もできてるわね」
「私は男の服だから」
ズデンカは目を伏せて姉に答えた。
「すぐに済むのよ」
「そうだったわね」
アラベラもそれを受けて目を伏せた。
「けれど心は別よ。例え服がそうであっても心は別よ」
「姉さん」
「貴女は女の子なのよ。それは忘れたら駄目よ」
「うん」
アラベラはズデンカに歩み寄りその手をとって言った。ズデンカはそれを受けて頷いて応えた。
「では行きましょう。娘時代に別れを告げに」
「ええ」
姉に対して言おうとした。だがやはり言うことはできなかった。
二人は部屋を出た。そして下に待っていた橇に乗る。そして舞踏会へと向かうのであった。
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