第9話『帰郷』
[9/9]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
のに」
タバコを加えて。
「って、あら? また見ない顔だわ。今日は珍客が多いわね」
少し斜に構えた態度で。
「で、なにかご用?」
少ししわの増えた、けれどまったくといっていいほどに変わってない顔で。
「……ぅ」
やべ。
「ちょ! ちょっとちょっと! 急に泣かないでくれる!? 私が泣かせたみたいじゃないの!」
でも、止まらない。
止まらなかった。
「ぅぅ」
「あぁ、もう! いい大人がみっともない! お茶出してやるから入りなさい!」
俺を促して、キッチンに向かうその足取りすらもなつかしくて。
だけど、このままじゃ何もいえないから。
ただいま、と素直に言うことすらどうしてか憚られて。
「みかんって……本当に、肌のつやを保ってくれるん、だね」
声をつまらせてそう言うのが精一杯だった。
だけど、それだけでもう伝わった。
これは俺やナミやノジコとベルメールさんの――
「え?」
――親子の会話だから。
信じられないほどの勢いでベルメールさんがこちらを振り向いた。
唇を震わせて、まるで人形みたいな動きで近づいてくるベルメールさん。本当なら笑えるはずの動きなのに、どうしても涙が先に出そうになる。
「あなた……もしかして」
「うん」
「ハン……ト、なの?」
「うん」
そう。
「胸を撃たれて……海に捨てられた?」
「うん」
そうだったなぁ。
「私の命を救ってくれた?」
「うん」
あの時は実に必死だった。
「……親より先に死のうとしたバカ息子の?」
「うん! ……うん?」
……あれ?
「どの面さげて帰ってきたこの親不孝な放蕩息子ぉぉぉぉ!」
え、あれ?
こう、抱き合って感動的な、さ?
そういう場面じゃ――
「――って待った待った! 包丁向かってこっち来るって何考えてんだみかんばばぁ!」
「うっさいわ! 誰がばばあだ! んでみかんの妖怪みたいに言うな!」
「……」
「……」
じっとにらみあう俺たちだけど、そんなものは当然長く続かない。ベルメールさんが包丁を置いて、そっと俺を抱きしめてくれる。暖かくて、みかんのにおいがして、たばこのにおいだってして。
「おかえんなさい、ハント」
「ただいま、ベルメールさん」
俺は、帰ってきたんだ。
ココヤシ村に。
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ