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アラベラ
第一幕その四
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とになるわね」
「そんな・・・・・・」
 ズデンカはそれを聞いて絶望した顔になった。
「私には私が正しいか、貴女が正しいかはわからないわ。けれどこれだけは言いたいの」
「何?」
「私が本当に好きになれる人はこの世には絶対にいるわ。そしてその人にめぐり合える時はもうすぐよ」
「何でそれがわかるの?」
「勘かしら。心の中で何かが私に教えてくれているのよ」
「そんな筈ないわ。気のせいよ」
「そうかも知れないわね」
 アラベラはまた言った。
「けれど私は信じるわ。私に訴えてくるこの中の声を」
「そうなの」
「ええ。ところで御父様と御母様は?今日はまだ外出されていない筈だけれど」
「奥の部屋よ。今占ってもらってるの」
「そう」
「そこで姉さんのことも占ってもらってるわ。幸せになれるかどうか」
「幸せにね。それもそうね」
 彼女はここで優しく微笑んだ。
「娘の幸福を願わない親なんていないから」
「姉さんにはね。けれど私には」
「ズデンカ」
 アラベラは悲しそうな顔をする妹に対して言った。
「そんな筈ないわ。御父様も御母様も貴女の幸せも願っておられるわ」
「そうかしら」
「少なくとも私は。だって私のたった一人の妹なんですもの」
「姉さん・・・・・・」
 ズデンカは姉の暖かい言葉に目に熱いものを感じた。ここで外から何か聞こえてきた。
「あれは」
「鈴の音かしら」
 二人は窓から下を見た。見れば橇が一両止まっていた。
「何かしら」
「そういえば今朝私が外出しようとした時だけれど」
 アラベラは語りはじめた。
「見知らぬ人が立っていたわ」
「どんな人?」
 ズデンカはそれを気になって尋ねた。
「大きな人だったわね。旅行用の毛皮の外套を着てたわ」
「旅の方かしら」
「多分ね。あそこの門に立っていたの」
 そう言いながら門を指差す。
「御供に騎兵の人を従えて」
「身分のある方なのかしら」
「少なくとも卑しい方だとは思わなかったわ」
「そうよね。御供の人まで従えているんだから」
「大きな目をしておられたわ。黒くて大きな目だったわ」
「黒い目。イタリアからの方かしら」
「そうともばかり限らないわよ。ほら、目の黒い方だって大勢おられるじゃない」
「あ、そうだったわね」
 オーストリアは多民族国家である。そしてこのウィーンは大国オーストリアの首都である。それだけに多くの人々が街を行き交っているのだ。だから様々な髪、様々な目の色の人々がいるのだ。
「一体誰なのかしら」
「今の橇に乗っておられた方かしら」
 既に橇の中の者はホテルに入っていた。残念ながら見ることはできない。
「こちらに来られたら面白いのにね」
「姉さんに会いに?」
「そこまではわからないけれど」
 アラベラはクスッと
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