第二十二話 少年期D
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アリシア・テスタロッサは少しばかりむくれていた。別に怒っているというわけでもないし、不機嫌だとあからさまに表情にも出てはいない。ただほんの少しだけへそを曲げているだけである。
そんな彼女の様子にいち早く気づいたのはリニスだった。テスタロッサ家の家猫になって早1年。リニスがそれに気づいたのは、いまだに野生根性上等な彼女の勘の良さもあるが、なによりも毎日ずっと一緒に暮らしてきたからでもあった。
だからリニスは、アリシアが不機嫌そうだとなんとなくわかった。おそらく彼女の兄も、今のアリシアを見れば確かに不機嫌そうだと言うだろう。逆に言うと、いつも一緒にいる家族だからこそ気づけたということにもなる。はた目から見れば、彼女はいつも通りなのだから。
「どうかしたのか」
「ううん。なんでもないよ」
勉強の手が止まっていたため不思議に思われたのだろう。アリシアは笑顔で首を横に振り、兄の代わりに勉強を見てもらっている男性局員にこたえる。その笑顔に安心したのか、彼も「そうか」と納得した。
アリシアは意識して表情を変えたわけではない。ただ胸の中のムカムカした気持ちを表には出したくない、という思いが彼女に無意識に笑顔を作らせた。今の自分の気持ちが悟られれば相手を困らせてしまうとわかっていたからだ。
彼女が1人でいる時は、実は結構おとなしい。兄とくっついているときは同じぐらいにはしゃげるのだが、1人の時はいつものように騒ぐことはしない。それはアリシアが今まで見てきた人が、大人ばかりだったことが要因でもある。
大人は本心を表に出すことがあまりない。そのためアリシアは、幼いうちから相手の感情を読むことを自然に覚えてしまった。
そんな彼女にとってアルヴィンは基準であった。アルヴィンは兄であり、父のような存在でもあり、最も近しい同年代だ。なによりもアリシアは、兄が相手との線引きが上手いことを知っていた。だから一緒にいると安心できるし、ここまでは大丈夫なのだと相手との距離をわかることができていた。
アリシアが一番接する相手だからこそ、彼女は誰よりも兄を見てきた。それはアルヴィンの真似をしながら成長したといってもいいぐらいに。
「にゃー」
「わっ、リニス」
勉強を再開しようとしたアリシアの膝の上に、リニスはちょんと飛び乗る。リニスは一度アリシアと視線を合わせると、そのまま丸くなった。特に重いと感じるほどの重量はないため、勉強に支障はない。むしろ柔らかな毛と温かさが気持ちいいぐらいだ。彼女はそれに自然に笑みを浮かべていた。
「お兄ちゃんとコーラル、遅いね」
「……そうだな。医務室で休んでいるのかもしれん」
茶色の制服に身を包んだ男性局員と少女と猫。異色だが気まずさはなかったりする
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