27,日常
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私の方は喜びよりもまた生き残れた安心感のほうが高く、一人別の場所で胸をなでおろした。
これが、私達の世界が変わるちょうどその時だった。
乾杯の音頭とともにカチン、とコップがぶつかり合う音が響き渡った。
みんなでワイワイと話しあう中で、主賓として招かれた二人はきょとんとした顔でこちらの方を見ている。
だけど、私たちはお構いなしで、自分たちでいつものように盛り上がり始めていた。
ケイタは勧誘のために、キリトに熱心に話しかけている。
ダッカーとササマル・テツオは先程の戦闘の戦功自慢をしながら、私の作ったご飯を美味しそうに頬張っていた。
お味噌同士、というべきなのかな。私は気軽な気持ちでもう一人の賓客の横に腰掛けた。
クロウ、と名乗った彼の年は私より上。お兄ちゃんがいるとすればこれくらいの年齢なのかな、なんて想像してしまう。
「苦しんでたけど、もう大丈夫なの?」
「……ああ、大丈夫だ。助かったよ」
世話になった。そういう顔は穏やかに笑っているけれど、目の方はむしろ死んだように濁っている。
それから暫くの間、ポツポツと二人で話していった。
私達がみんな、同じ学校の友達同士だということ
皆で食べている料理が私が作った食べ物だということ
彼の好きなもの・私の好きなもの
新しく出来た攻略ギルドの大活躍
そうして他愛のない話が途切れた時、彼は話す中でユックリと切り出した。
「俺がどうして倒れていたか、知りたいんだろ」
「ぇ?」
私が驚いて彼の顔を見つめると、顔に書いてあった、といって笑う。
ちょうどいい機会かも、そう思ったからコクンと頷いた。
「――俺はさ、戦うのが怖いんだ」
彼は右手で腰にさしてあった短剣を握りしめ、抜き放とうとした。
だけど、鋭い剣閃が見えたのは鞘からほんの少しだけ。
短剣は鞘から抜けた時点で手のひらからこぼれ、私の足元にカランと音を立てて転がった。ランプに照らされた刀身の光は淡く、儚い。
わけも分からずクロウの方を向き直ると、彼は左手で震える右手を必死に抑えていた。
「チョット前からか。武器を構えようとするだけでこのザマだよ」
笑っちまうだろ。なんていう彼の顔は、表情がひび割れて壊れた様だった。
無理をしているのは、明らかで。
それは、たぶん――私と同じ。
「ねぇ、これからどうするの?」
私の質問にクロウは暫くの間、答えなかった。手元にあったジョッキを煽り、口元を拭いてから陽気に語り出した。
「さあな、分からない。戦闘が出来る状態じゃないし、かと言って生産系のプレイヤーを目指すってのも時間がかかるからな」
「じゃあさ、ここにいない?月夜の黒猫団に」
壊れた笑顔を見て、その言葉は私の口から
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