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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十三話 備えあれど憂いあり
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高に構えても無駄だ。要らぬ力を込めてはならぬ。ぬらりと相手の懐を覗き込め――ですね?」
 息子が目を閉じて暗唱した言葉に豊守はにたりと笑って尋ねた。
「お前も教えられたか。どうだ役に立ったか?」
 彼も父から教えられた言葉であった。
「覚えていますよ、とても役に立ちました」
そういって浮かべる不敵な笑みは中々どうして板についていたものである。
「女性には使えないようだがね。女性の泣かせ方が最悪だ。茜嬢に愛想を尽かされても知らんぞ?」

「いや、そのようなアレは、その、困ります。」
あっさりと取り乱した息子に苦笑を浮かべる。
 ――まだまだ、若いな。将家の嫡流としては二十も半ばを過ぎてこれでは困るのだが――私も父も既に子を持っていた年なのに。
「正直なところ、余計な厄介事が入り込む前に婚姻を結んでほしいのだがね。
弓月殿との関係も安定させたいところだし、私も孫の顔を早く見たい」

「――何を言ってるんですか、四十半ばで孫は早いですよ。」
豊久がじっとりとした目で抗議するが豊守は即座に切り返す。
「身を固めていない佐官と言うのは遅すぎるだろう。少佐にもなっているのなら身を固めるのが常識だろう?」
「それは、あー平時の話でして。その偶々中佐になっただけである自分としては前向きに検討する要素ではありますが元々否、と言うには根拠が皆無に等しいわけでして
だからと言ってただちに話を進めるのはやぶさかでなく。しかし、善処の方向へと向かいつつある事を自分は確信しております」

「無駄に長く無駄に丁重な無駄な長広舌をありがとう。つまり婚姻するには裏事情が鼻につくと。それはそれ、これはこれ、だろうに。
お前だって弓月殿の伝手を利用したばかりじゃないか。それで茜嬢と面も会わせないのは筋が通らんだろうよ」
 弓月由房故州伯爵も激化する政争の中で、駒城との結びつきを強めている。
 その中でも特に強力な結びつきが重臣団の中でも次席と云われている馬堂家との婚約である。
 そっぽを向いて細巻をふかしているとうの婿でさえ。つい先ほど政国屋と守原の干渉に備えた根回し工作に内務省庁舎に赴いたばかりである。
――或いはそうしたことを教え込んだ所為なのかもしれない。
そう豊守は思い至った。自分の内側に爆弾になりうるものを持ち込む事を恐れているのか。
 ――やれやれ、若い内から裏事情を教えすぎたかな。

「話を戻すが、取り敢えずは西原を介した適度な便宜でよかろう。
元々、本命は西原であって守原の伝手は必要ないし、駒城に反旗を翻すつもりもない」
頼る先を考えるにしても、西原はまだマシだが、守原は論外だ。
 積極的なのは良いが、あからさまに信用を落として勝利を得てもなんの意味もない事を理解していない。 社会は与える事と与えられる事で回ってお
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