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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十三話 備えあれど憂いあり
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彼は駒城派の将官だ、よほどの騒ぎになる。それに乗じてお前と窪岡少将の血で総反攻復活などと馬鹿げた夢をみたのか?
だとしたら、お前が奏上の時に余程恨みを買ったのが切欠だろう。奏上も終わったのに感情だけで態々金を積んでまで、将官の馬車を追って殺しに掛かったのだからな。――本気で夏季総反攻を強行するのならば、奏上の前にお前を奉書ごと焼くだろうさ」
情報将校の狡知の光を瞳に過らせながらの若い中佐が発した言葉に新城も短くなずいた。
 ――此奴なら本当にやりかねない。

「貴方も大概ですよ。全く変なところばかり豊守様に似て――」
 隣の秀才参謀が頭を抱えるがとうの若手中佐はそれを意に介さずひらひらと手を振りながら気の抜けた返事をする。
「じゃなきゃこの高貴な育預様とこんな長い付き合いが出来るわけないさ。」
 ――さて、と書類仕事が終わったと思ったがこれでは駆け込みで残業だ。
ちょいと俺は降りるから宜しく。――大辺、父上に言伝を頼むぞ」
 何時の間にか官庁街へいたる十字路に来ていた。歩いて小半刻程度で内務省に到着できる距離である。
「新城、二度目があるかもしれないからな、気をつけろよ。俺に出来るのは所詮、対症療法だけだ、何も解決していないからな」
 ――そう言って姿を雑踏の中に溶け込ませていった。



同日 午後第六刻 馬堂家上屋敷 
兵部大臣官房総務課理事官 馬堂豊守准将


脳裏で図面を引きなおしながら豊守は息子へと視線を戻す。
「――守原は一枚板ではないようですが、当面、表面化する事はまずないでしょうね。
守原定康は駒城の切り崩しに取り掛かる様です――意外と言うべきか、突くべきところは見ているようですね。自分達が誰に何を押しつけたのかを忘れたみたいですが」
うんざりしたようにひらひらと書状を振りながら北領の英雄は露骨に不機嫌そうに吐き捨てる
「本当にいい面の皮をしている。敵を押しつけた相手に此方に来いとは」
 ――当事者としては憤懣やる方無いだろうな。水軍の責任者であった中佐と殿下が居なければどうなっていたのやら。
 さてどう宥めたものかと豊守は探りを入れるべく口を開いた。
「それで、豊久、お前はどうしたい?」
「乗るのは論外としか言いようがありませんね。とはいえ露骨に事を構えるのも悪手でしょう。
不本意ですが、守原に恨まれるのは危険極まりない。前線でまた連中の後始末を押し付けられるのは御免ですよ」
 そういうと豊久はぶるり、と身を震わせた。
「あぁ、嫌だ。またあの屑が前線にしゃしゃり出て来たらどうしよう」
珍しく生の感情をむき出しにした息子に豊守は眉を顰めて忠告する。
「豊久、恨むのはよいが、それで判断を曇らせてはいけないよ。焦っては駄目だ」

「――功を焦って急いてはいけない、居丈
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