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巫哉

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 声が聞こえた途端、幼子は驚いてきょろきょろとあたりを見回した。



 なにをやってるんだ、こいつは?



「おい?」



「よんだ?」



 幼子は後ろを見ながら言った。本当になんだこいつは。『彼』には今まで、ヒトとの関わりがごく少ないと言えど何度かあった。それでもここまで理解できないヒトに会うのは初めてだった。何故目の前にいる『彼』と話をするのに後ろを見るのか。



「おい、どこ見てる。俺はてめぇのケツと話す趣味はねぇぞ」



 『彼』は幼子の頭をがっしりと掴むと自分の方に向けさせた。



 幼子は、じっと見詰めたまま、なんと今度は『彼』の上唇をぐいと掴んで引っ張った。



「この野郎…」



 鼻と唇を引っ張られた間抜けな格好のまま、『彼』は唸った。



「おにーちゃんがいったの?でもこのくち、うごいてないよー?どうやってしゃべってるの?」



 拳骨で幼子の頭を小突いて、『彼』は腕を払った。



 声は聞こえるけれど、『彼』の口が動いていないと、だから他にヒトがいて自分を呼んでいるのだと思ったということらしい。そうだ、ヒトは言葉を発するのに唇を動かすのだった。『彼』は思った。久方ぶりに起きたせいで、ヒトに疑われないような擬態の仕方すらすっかり忘れているようだ。



 いや、『彼』は起きたのではない。起こされたのだ。信じられないが、どうやらこの目の前のヒトの子供によって。



 『彼』はじっと幼子を視た。しかしいくら視ても、なんの変哲もない普通の子供だ。



 ただの偶然か。



 そう結論付けて『彼』はまた眠ろうとした。偶然と片付けるにはどうも納得できなかったが、考えてもわからないものは仕方がない。ヒトはどんな不思議で不可解な事も納得させる言葉を持っている。偶然、いい言葉だ。眠ろう。



「ねーねー」



 しかしそれを高い声が邪魔をする。



「何だ。まだいたのか。さっさとどっかいけ」



 今度はきちんと唇を動かして『彼』は応えた。



 言うか言わないかのうちに幼子はべたっと『彼』のお腹に抱きついた。



「何がしてぇんだてめぇは!」



「ひべにね、こうしててあげる」



「はぁ!?頼んでねぇよ!」



「そしたら、おにーちゃんさむくないよ」



 幼子は『彼』の顔を覗き込んでにっこり笑った。



 『彼』はもう幼子をほおっておくことにした。ヒトの子は飽きやすいものだ。そしたら勝手にどこかへいくだろう。



「おにーちゃん、あったかい?」




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