巫哉
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今にも泣き出しそうな曇天に強く風が荒れていた。
下方に大きく広がるグラウンドは先日の雨がまだ乾いていないようで、空気もじっとりと重く水気を含んでいる。
学校の屋上で濡れた手すりに肘をかけながら日紅は考えていた。
『彼』の真名、それは何なのだろうか。
『彼』は日紅に思い出せと言った。では日紅が『彼』を呼ぶ巫哉というものが真名ではないのだろう。犀は『彼』のことを月夜と呼ぶが、犀自身も言っているようにそれは便宜上の問題で勝手につけた名のようだし、これもまた真名ではないだろう。
今まで日紅が会った妖も『彼』のことを太郎やら葉月やら梅やら好きに言っているが、どれもこれも『彼』の真名とは思えない。
いくら考えても、日紅は『彼』のことを巫哉としか呼んだことがなく、他の名前など一切浮かばなかった。
日紅は天を仰いで溜息を吐きだした。
手詰まりだった。いくら考えてもわからないものはわからないのだ。
一体どうすればいいのだろう。
もし、本当に『彼』の真名を知っている者がいるとするならば。たったひとりだけ、日紅には心当たりがあった。
「わたしの印を消されたな?お主を見つけるのに手間がかかってしまったぞ」
日紅はその声に大きく反応した。
「ウロ!どこ!?」
きょろきょろとあたりを見回したが漆黒の麗人の姿は見えない。
「いるんでしょ!?どこにいるの?」
「隣だ」
日紅は左右を見たが何も見えなかった。がらんとした広い屋上が広がっているだけだった。
ただし声はしっかりと日紅の左横から聞こえた。
「えーと…ウロ?」
「日の神が地を照らしている間、わたしはヒトの目には映らぬ」
「でも、いるんだよね!?ウロ!」
日紅は叫んだ。
「巫哉の真名を教えて!知ってるんでしょう!」
「知らぬ」
「だからはや、…え…?」
日紅は茫然と呟いた。
「嘘!知ってるんでしょ?意地悪しないで教えてよ!お願い!」
「何故わたしが嘘など言う必要がある。あいつの真名など知る必要もないから、知らぬ」
虚ははっきりと言った。
「…」
望みの綱も断たれてしまった。
もしや、『彼』はただ日紅と顔を合わせたくがないために真名を思い出せ、なんて無理難題を言ったのではないかという気さえしてくる。
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