巫哉
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「泣くな」
「ないてない。雨降ってきたんじゃない?」
「齧るぞ」
どんな脅しだ、と思いつつも日紅は目尻をこすった。
ここのところ、情緒不安定なのか我ながらよく泣いていると日紅は思った。
犀は日紅を心配しつつも、『彼』のことで頭がいっぱいなのが不満なのか最近は少し怒っている。
日紅も犀には悪いとは思うのだが、『彼』のことをそのままになんてできない。
けれど犀はそのような様子で頼ることもできず、真名に辿り着く糸口すら見えず、日紅は途方に暮れていた。
「わたしは知らぬ。が、お主は知っているのではないか、ヒベニ」
日紅は首を振った。
「お主以外にあやつが教えると思えない」
「そんなことないよ…。あたしは、ウロにだったら巫哉は言ってるんだと思ってた」
こんなことを言い合っていても水掛け論にしかならない。日紅はため息をついた。結局、誰も知らないのか。
しかし虚は強く言った。
「いや、知っている筈だ」
日紅は黙り込んだ。
そうなのだろうか。日紅は知っている?『彼』の真名を。けれどどれだけ頭を絞ろうと思いだせなかった。
何かの拍子に思い出すかもしれないが、果たしてそれはいつになるのだろう。
タッと日紅の鼻先に滴が当たった。間をおかずそれは滝のような土砂降りになった。
「おい、ヒベニ。また身体を悪くするぞ」
「…うん」
虚にそう催促されたが日紅は動かなかった。水はすぐに制服の奥の奥にまで滲みた。
日紅は虚の声が聞こえる左をじっと見て、不意に拳を突き出した。
掌は空中の何かにぶつかって止まった。
「何をする」
「触れないと思った」
日紅はぱっと顔をあげて笑ったがそれはすぐに歪に歪んだ。
日紅はそれを隠すように勢いよく両腕を突き出して虚に抱きついた。
涙は空の滴と共に日紅の頬を伝い頤を流れた。
虚はきっと呆れた顔をしているか、無表情か。少なくとも驚いてはいる筈だ。けれど今日紅には虚以外に縋れる相手がいなかった。引き剥がされないように日紅は虚にまわした腕に強く力を込めた。
しかし予想に反して虚は動こうとしなければ喋りもしなかった。
暫くしてから日紅は恐る恐る虚の顔があるはずのところを見上げた。
「気が済んだか」
やっと虚は口を開いた。
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