弐ノ巻
かくとだに
3
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なく身勝手な。
案の定、瑠螺蔚さんはひどく傷ついた顔になった。
悪いことをした、と心ではわかっているけれども、止められなかった。激情の赴くまま体が、口が勝手に動く。
これがどういう感情なのか、何と呼べばいいのか僕にはわからない。
瑠螺蔚さんは僕から視線を逸らした。その瞳からは、絶望と言う涙が溢れている。
「貴方はそれほど、俊成殿のことが大切なのか?後を追って死にたいと考えるほど、俊成殿のことが大事なのか!?」
僕は瑠螺蔚さんの肩を掴んで乱暴に揺さぶった。
「…やめて…」
瑠螺蔚さんはいやいやと頭を弱弱しく振りながらか細く言った。
それでも、僕を見ようとしない。
「僕を見るんだ、瑠螺蔚さん!貴方は、俊成殿のことを一人の男として好きだったのか!?」
「やめて!」
瑠螺蔚さんが、僕を見た。
その瞳に宿る強い感情。今までのぼんやりと魂が飛んだような瞳とは違う。涙に濡れ爛々と輝く漆黒の目は、ちゃんと現実を見ていた。
「あんたは何を言っているの!?兄上のことを、一人の男として好きなんて、あるわけないじゃないの!あたしは…」
「それなら、何故そこまで思い詰めるんだ!」
「何よ!あんたはあたしに忘れろっていうの!?兄上のことを!」
「そんなことは言ってない!」
「言ってるじゃない!兄上はあたしの兄さんよ!?たった二人きりの兄妹だったのよ!あたしには悲しむ暇もないの?まだ、三月しか経ってないのに!」
瑠螺蔚さんは涙を拭った。それは確かに瑠螺蔚さんの心からの声だった。
「…あんたには、わからないわ…」
その拒絶に僕はまた頭に血が上った。
身内だけが、悲しむ対象とでも言うのだろうか。友を亡くすことなんて、戦場ではままあることだ。それに、慣れなきゃ生きていけない。でも、慣れることと、悲しまないことは別なのに。
瑠螺蔚さんも戦火に巻き込まれたことはある。この戦の世だ、前田家のようにいつ家族が、友が、家人が亡くなるかもしれない。でもそれは、戦場に行かなくていい女の意見だ。武はそんな悠長なことは言ってられない。
自らの命をかけて、生活をしていかなければならない。自らの為ではなく、家の為、家族の為、愛する命の為に。
本当に、瑠螺蔚さんは世間知らずだ。良くも悪くも、愛しみ守られて生きてきた姫だ。
綺麗に整えられた世界を見せられてそれがすべてだと思っている。
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