弐ノ巻
かくとだに
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女として見始めたのは。僕に分かろうはずもないが、僕は立場で既に勝利が決まっているのに、気持ちで俊成殿に負けた気がした。
男としての矜持と言うのか、それから僕は嵐のように瑠螺蔚さんの父忠宗殿を拝み倒して無事婚姻の内諾をとりつけた。
優越感を持ちたかったのかもしれない。瑠螺蔚さんにより近い立場にある俊成殿に対して。
なにもかも僕の先を行く俊成殿。けれどたったひとつ、瑠螺蔚さんだけは譲れない。
そして俊成殿は亡くなってしまった。瑠螺蔚さんの心を連れて。
亡くなられたことは、悲しい。けれど俊成殿にとっては幸せなのじゃないだろうか。この先、瑠螺蔚さんは別の男の手を取る。家庭を築いていく。肉親と言う誰よりも近い位置にいながら、俊成殿はいくら切望しても瑠螺蔚さんの人生に関わることはできない。肉親というそれ故に。
誰にも知られず、嫉妬や叶わない想いで身を焦がし続けるぐらいなら、きっと。
瑠螺蔚さんはそんな俊成殿の想いを知らず、これからも生きて行くのか。無邪気に何も知らず笑っていればいいのか。
瑠螺蔚さんの笑顔は好きだけれど、たまにそんな理不尽な気持ちに駆られる。
俊成殿が瑠螺蔚さんのことを愛していた、なんて今更告げて苦しめたいわけじゃない。あの濁りのない笑顔を曇らせたいわけじゃない。それは俊成殿も望んでいないだろう。
でも、知らないということは免罪符になるのか?瑠螺蔚さん。
僕はずっとそう思っていた。
俊成殿は、瑠螺蔚さんを愛していたけれど、瑠螺蔚さんは違うと。
僕が由良を大切に思うように、瑠螺蔚さんも俊成殿を大切に思う、それは兄妹の情を出ないものだと、思っていた。
けれど、今の瑠螺蔚さんの様子を見ていると、もしかしたら、という思いが過る。
一度考えると、もう止まらなかった。
今まで俊成殿に感じてきた劣等感や、嫉妬やそんなものと混ぜこぜになって吹き荒れる。
僕は無言で瑠螺蔚さんを抱えて岸に上がった。
「あにうえは、もう、いないの…?」
そんな僕に気づかないのか、瑠螺蔚さんは小さい声で呟いた。
「俊成殿は、もうどこにもいない。いい加減にしてくれ!死んだ人のことより、今を考えるんだ!」
僕はそう叫んでしまった。
それが、どんなに瑠螺蔚さんを傷つけるかわかっていながら。
はっとした時にはもう遅かった。一度口から零れ落ちた言葉はもう拾い上げることはできない。けれど、確かにそれは僕の本音だった。この上も
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