弐ノ巻
かくとだに
3
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けれど、それだけではないということを、僕はわかってしまった。
俊成殿は見事だった。その感情を心の奥底に隠して消し表面に出さず、誰にも悟らせなかったのだから。僕もまさか俊成殿が瑠螺蔚さんを妹以上に見ているだなんて思ってもみなかった。瑠螺蔚さんよりは少ないけれど、俊成殿とは小さいころからずっと一緒に過ごしてきたのに、僕にそれを見せたのはたったの一度きりだ。しかもそれはごく最近で、僕はそれまで一切気がつかなかった。
僕が気づけたのは、同じ姫を愛しているということと、普段の俊成殿を知っていたからだろう。俊成殿のことをよく知らない者では絶対にわかるまい。
なぜならそれは、日常的な光景だったからだ。
1年前、瑠螺蔚さんに会いに前田家に行った。瑠螺蔚さんと俊成殿は庭にいた。二人きりで。楽しそうに、瑠螺蔚さんが指さすその先には雀がいる。米を啄む雀を見て生き生きと笑う瑠螺蔚さん。一歩さがったその隣で瑠螺蔚さんを見つめ微笑む俊成殿。
僕はいつもどおり仲睦まじい兄妹に少々苦笑しながらも声をかけようとして、凍った。
俊成殿の瞳に、情欲がある。瑠螺蔚さんの背中を見つめるその瞳の中に、深い感情がゆらめいていた、気がした。
俊成殿は一瞬で僕に気づいて驚いたような顔をした。
瞳の熱はすぐに消せないのか、その次に浮かび上がった色を見て、僕は二人に声をかけることなく背を向けた。
どくどくと不吉に高鳴る鼓動を押さえて、僕は足早に歩く。
まさか、そんな。いやそんなことはないはずだ。
けれど、考えれば考えるほど、僕の考えは確信を持って悪い方に固まっていく。
最初の瑠螺蔚さんの背を見詰める視線だけだったら、僕は気のせいで済ませていただろう。それほどまでに俊成殿が覗かせた感情は一瞬だった。
けれど、その次に僕を見た、その目には確かに嫉妬があった。
僕に向けた敵意、嫉妬…。どうしてわかってしまうのだろうか。同じ女を愛しているからか。わかりたくもないけれど、直感が告げる。
俊成殿は、瑠螺蔚さんを愛している…。
実の妹を愛するなんて、僕には全く想像もつかないような話だ。決して叶うことのない恋。俊成殿には妻がいる。そして瑠螺蔚さんはいつか、別の男に嫁いでしまう。その苦悩はどれだけのものだったろうか。本人に打ち明けることもできず、ただ見守り続けるだけだった日々を思うと、僕なら耐えられない。
その時、僕は敵わないと思ってしまった。その思いの深さに、強さに。一体いつからなのだろうか、瑠螺蔚さんを妹ではなくただ一人の
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