弐ノ巻
かくとだに
3
[3/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
かりだ。次に同じようなことがあったら心臓が止まってしまうかもしれない。
うっすら瞳を開いた瑠螺蔚さんは、ぼんやりと視線を彷徨わせた。
水面から月へ、月から自分の付けている首元の勾玉へと。
僕もなんとなくその視線を追った。瑠璃色の勾玉は月光を受けて淡い輝きを放っていた。
そういえば、勾玉なんて瑠螺蔚さんは持っていただろうか?いやに古びたものだ。いつからつけていたのだろうか。
瑠螺蔚さんの視線が勾玉から辿って僕を見たその時、飛び出さんばかりに大きくその瞳が見開かれた。
それはあまりにあからさまで、逆に僕の方が驚いた。
僕の顔に何か、ついているとか?
その見開かれた眼尾にみるみるうちに涙が溜まり、溢れだした。それを拭おうともせずに、瑠螺蔚さんはただ僕を見つめて泣いているのだった。
理由が分からない僕はただおろおろするばかりだ。
ふいにその唇が声なく動いた。
あにうえ、と。
それを見た瞬間、僕はカッと頭に血が上った。思わず瑠螺蔚さんの肩を掴むと、瑠螺蔚さんは口を開いた。
「兄上、生きていたのね!?良かった…」
「瑠螺蔚さん!」
僕は掴んだ肩を揺すったが、瑠螺蔚さんはそのまま真正面から僕に抱きついてきた。僕は、声を失った。
「兄上…あたし、兄上が死んでしまったのかと思ったのよ。本当に、死んだのかと…ばかよね、あたし。兄上はここにいるのに…本当に…ばかよね」
瑠螺蔚さんは僕の胸に顔を押し当てて、嗚咽し始めた。
瑠螺蔚さんの目には、僕が俊成殿に見えているのか。そう信じたいのか。
「しっかりするんだ、瑠螺蔚さん!」
僕は瑠螺蔚さんを引き離して、頬を打った。
瑠螺蔚さんは信じられないと言うように僕を見た。
「兄上…?」
「しっかりしろ!僕は俊成殿じゃない」
「兄上、じゃ、ない…?」
瑠螺蔚さんの瞳から、また大粒の涙がぼろぼろと零れ落ちた。
それは、冷たい涙だ。蒼い涙だ。悲しみの涙だ。絶望の涙だ。
そう、瑠螺蔚さんは絶望している。わずかな希望をも断たれたことに。
それほどまでに…!
「それほどまでに、俊成殿が大事だったのか、貴方は…!」
口に出した瞬間、僕の中で何かが弾けた。
俊成殿は、瑠螺蔚さんのことを好きだった。
妹として。愛しみ、守る深い親愛の情。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ