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巫哉

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「なに、考えてるの…?」



 『彼』は日紅の2歩手前で立ち止まった。



 今まで日紅はただの一回も『彼』のことを怖いなどと思ったことはなかった。



 口がいくら悪くても、態度がそっけなくても、日紅のことを大事に思ってくれているのが分かっていたから。



 けれど、今、『彼』が怖い。いや、恐ろしいのは『彼』のことだけだろうか。日紅の気付いていないところで何かが起こっているのではないだろうか。



 『彼』も、犀も。日紅が立ち止まっているうちにどれだけ遠くにいってしまったのか。



 目の前で『彼』が顔を(しか)めた。



「会ったのか」



「え?」



「あいつ」



 『彼』は苛立たしげに日紅の肩を指した。



「印つけやがって…ふざけんな」



「あ、えっと、ウロのこと?でもウロは巫哉の事心配してきたんだよ!傷口も治してくれたみたいだし、怒らないで!」



「だからおまえは甘いんだよ!(あやかし)をヒトと同じに見るなって何度言った!?首に(ウロ)の印が付いてる。それがどういうことかわかってんのか!」



「…どういう、ことなの」



「それは虚の食物って目印だ。それが付いている限り、おまえがどこにいても虚にはわかる。遅かれ早かれ喰い殺される」



 日紅は咄嗟に首元を押さえた。押さえたところが一瞬カッと熱くなって冷えた。



「解いた。もう二度と会うな」



 『彼』の声は確かに怒りがあった。自分に対してか、ウロに対してか、それとも、日紅に怒っているのか。



 ウロが自分を食べようと目印をつけていたということを『彼』から聞かされても、日紅にはなぜかしっくりとこなかった。熱で頭が回らないのもあるのだろうが、日紅はどうしてもウロのことを怖いとは思えなかった。



 それが、『彼』の言う甘いってことなのだろうが。



 でも怒っている『彼』は日紅の知っている『彼』で、日紅は少し安心した。



「巫哉…かえってきて」



 ぼんやりと日紅は呟いた。



 そうだ。それが言いたかったのだ。



「どうして出ていっちゃったの?あたしのことが嫌いになったの…」



「嫌い…」



 『彼』が日紅の言葉を反芻(はんすう)した。



「いつも言ってる。俺はおまえが大嫌いだ」



 違う。日紅は思った。そんな表向きの言葉でごまかして欲しくないのに。



「あたしはすき」



 結局いつもの応報になってしまうのを日紅は悔いた。だがこの言葉以外に
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